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第一部 運命の出逢い。それは――。

二十二発目 未体験で最弱のちっちょい矛を持つ青年――遂に一皮剥ける?【後編】

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「貴方達……前に私に言ったわよね? ――組合の最終兵器って」

 神妙な面持ちで問うアの女王。

「儂が姐さんに向けて確かに言ったけど? それとどう関係するのよ?」

「ごめん。私にも話しが見えなてこないんですけど?」

 それを受けて、怪訝そうに質問を質問で返す変態の御二方。

「――私は確かに組合の最終兵器と言えなくもない。でもね? 私なんかを遥かに凌ぐ、この世界の最終兵器も居るって言えば……解る?」

 一方的に暗黒龍を嬲っている姿を追いながら、そう静かに呟いた。

「「――え? それって……まさか……」」

 アの女王が目で追う先に視線を移し、驚愕の表情で答える。

「御二方のご存知の通り、ナイチチ様は世界最強の盾。絶対防乳防壁を揺らし歩く、まさに難攻不落の幼塞要塞に御座います。そして魔――ケホケホ。タダヒト様は、対となる世界最強の矛に御座います」

 アの女王の代わりに、職員さんがそう告げた――。

「「――え⁉︎ ちっちょいのに⁉︎」」

 矛と聴いて何を連想をしたのか、全く違うベクトルで驚きの声をあげた。

「――どんな時でもブレませんね、御二方は」

 ジト目になる職員さんだったり。

「タダヒトには呪いに匹敵する誓約――二つのギアスがその身に施されているの。一つは……普段のタダヒトには全く自覚がない。つまり記憶に制限がかけられていて、本人は覚えてないではなく。――もしも自分が命の危機に瀕したとしても、それが解かれることはない」

「なんと……過酷な……」

「それで、もう一つは?」

「残る一つは……心より守りたい者――その者が生死を左右する状況、或いは生命の危機に瀕した時のみ、施された誓約が解き放たれ、失っていた記憶が自然に戻るのよ」

 一拍の間をおいて続ける――。

「但しそれは……強大過ぎる力。魔王の力と同化したタダヒトが表に出てくるのよ。ゆえに長く解放すれば、自身が崩壊する危険も孕む、命を賭けた最終手段」

「あ、あんまりじゃないの!」

「儂も同意。それって酷くない?」

「五歳のタダヒトが、自らの手で両親を魔王の呪縛から解いた際に背負った代償なのよ」

「五歳で⁉︎ な、何が……あった……」

「代償って……まさに呪いじゃない……」

「タダヒトの両親と私の母は勇者パーティで、極悪非道の対先代魔王の切り札だった。そして母の素質を色濃く引き継ぎ、優秀だった若かりし頃の私も組み込まれていたのよ」

 涙目で追いながら続ける。

「だけど討伐の際、逆に返り討ちに遭った。そこで終われば良くある冒険者の末路。でもね……終わらなかった。タダヒトの両親が先代魔王の術中に嵌り、自我を奪われ世界を滅ぼそうとした。――それを当時、五歳のタダヒトが……たった一人で……自らの手で葬り去った――って、信じられないでしょう? その時、瀕死だった私も……タダヒトに助けられたのよ」

「なんと……痛ましい……」

「流石に言葉もないわ……」

 変態然とした態度は鳴りを潜め、やんややんと騒ぐのも止めて、ただ真剣な表情で聴きいる御二方――。

「最後の最後に先代魔王はタダヒトを内側――精神から乗っ取ろうと画策するも失敗。逆に先代魔王を取り込んで力の全てを得た、五歳のタダヒトが誕生した――」

 唇を噛み締め、続ける――。

「そして……あまりにも強大過ぎたその力は、五歳の器には収まりきらず、自らの手で両親を葬った自責の念も手伝って……制御できず暴走する」

 一泊の間をおき、更に続ける――。

「そして……世界が終わりを迎えるであろう瞬間、先代魔王の力を使い自らを封印したのよ」

「そこまで……」「タダちゃん……」

「暴走した際、魔王城のあった場所は……その日、世界から消え失せた。直接、加担していた者ら全てと一緒に。――結果、残った魔に連なる者は全面降伏を宣言。和平交渉へと繋がり現在に至る、と。現在の魔王に世代交代して、その妻が人族ってこともあって世界は平和に過ごせている――その功労者がタダヒトだったのよ」

「なんと⁉︎」「重い……」

「一応、先代魔王の首を取ったのは私とはなってるけど……実際はそう言うわけよ。虚偽の理由はナイチチと同じで、そうせざるを得なかった。魔王を退け、魔王の力をも内包したタダヒトを、私利私欲で利用しようと目論む悪意から遠ざけ守る為、私がスケープゴート生贄にされた身代わり役をかって出たのよ。あとは……無意識のうちに、度々、漏れ出す先代魔王の力を抑えるストッパー代わり。そして……万一にもタダヒトの自我が失われて魔王として覚醒した際の、切り札という名の生贄――いいえ、そっちは万に一つも絶対にあり得ないわね」

 全てを話し終えた時には、熱い雫が頬を伝って溢れ落ちていた――。

「――ゲイデ様、キズナ様。お話しに一区切りついたところで、お伝えしておくべきことが御座います。誠に申し上げ難いのですが……私には別の特殊任務が御座いまして……秘密を知られた以上……私の命に代えましても……御二方を始末させて頂く所存に――」

 漆黒の短剣を抜き、冷たい殺気を身に纏うカゲヨ。
 眉一つ動かさず、冷酷に告げる。

「――カゲヨ。世界の終焉を導きたければ、そのようにすれば良いわ。当然、貴女も私も――世界中の人達が道ずれだけど」

「主様……くっ……で、では。お戻りになられましたら、この内容全ての記憶を秘術にて消去させて頂きますこと、予めご承知おき下さい。世界――いいえ、何よりも魔――ケホケホ。タダヒト様をお守りする為に止むなきことと、どうかご理解下さい」

 漆黒の短剣を鞘に収め、深々と頭を下げた――。

「このことを記憶している者は、私と、裏の組織の現頭領であるカゲヨ。あとは冒険者組合統括……私の父のみ」

「そう……色々と……合点が言ったわ」

 男泣きをひた隠す――。

「記憶を消すこともできれば戻すこともできる、か……。捕まって頭の中を探られでもしたら、意図せず露見する場合もある……。当然の措置かな。――おっけ、受け入れるわ。でも……何も知らない状態……素のタダちゃんが少し心配ね。力になってあげられないのが一番……納得いかないくて……悔しい」

 錫杖を抱き締め涙する――。

「自らの持つ全ての力を、魔王の力と一緒に封印する時……『それも、まぁ、運命。過ぎた力は身を滅ぼすから要らないよね? でも……大切な人を守る力は必要。その時だけは別だから』って、悲しく微笑んでた。自分の両親を自らの手で失ってまで、瀕死に近い私を助け庇いながらそう言うのよ……五歳の幼児が。――その時その瞬間、私は決めたの。どんなことでもこの子の為ならやるってね。――私がタダヒトに全てを捧げ、両親に代わり生涯を賭して守り通すって誓ったのよ」

「そう……」「タダちゃん……」

「あとで忘れることにはなるけれど、今はどうか見届けてあげて。私の最愛の弟は――世界最強の弟だってのを――」

 矢面に一人立ち塞がり、凄まじい攻防を未だ繰り広げる勇敢な姿を、ただ静かに皆で見守るのだった――。


 ◇◇◇


 禍々しいまでの暗黒竜の姿が崩れ、軟体化した元の謎生物だか謎物体だかへと変貌し、まるで怯えたように壁際に後退っていく。

「けっ、この程度のオレ如きに臆したか? 存外、見掛け倒しで大したことないのな」

 仁王立ちのまま睨みを利かせ、目の前の不確定名、ぶよぶよしたものにそう告げてやる。

 そうは言うものの、オレにしてもこれの正体が良く解らん。
 オレの知る魔法生物であるスライムとは、根本的に何かが少し違うようだしな。

 まぁ、オレ的にはこいつがなんであろうと、変態どもがどうなろうと、正直、知ったことではないし、心底、どうでも良い。

 だがしかし、姉貴と娘に万一のことがあれば、自責の念で俺と言う個体が内面から崩壊し、結局はオレが道連れになる。
 同じ身体を共存し共有して生きている以上、面倒臭いが止むなしだ。

「――けっ、お優しいに感謝しろっての」

 吐き捨てるように呟き指を鳴らす。
 直後、後方で某エロフが汁だくになって施している拙い防御結界の上から包み込むように、更に分厚い防御結界が展開された。

「さて。得体の知れない何かさんよ。このオレが直々に遊んでやる。精々、悦び勇んで全力でかかってこい。そして無様に朽ち果てて逝け」

 香ばしいポーズでクイっと親指を下に向け、蔑む目線で罵ってやる。

 怯えて後退っていた暗黒竜だかスライムだかなんだかが、そんなオレに半分崩れた姿のままで牙を剥く。

 長い首で払おうとする。
 巨大な牙で喰らおうとする。
 鋭い爪で斬り裂こうとする。
 振り抜く尻尾で叩きつけようとする。

 だがしかし。

 手数が増え激化しようとも、その尽くを難なく躱すオレには、当然、擦りもしなかった。

 そんな苛烈極まる攻撃の最中、再び黒炎息を吐く動作に入る僅か一瞬の隙をつく。

「けっ、暇潰しにもなんなかったな――」

 抜いていた鋼の長剣を、一旦、鞘に戻し、低く腰を据えて身構えた。

「終わりだ――」

 そして鞘から滑らせるように抜き放った、鋼の長剣による横薙ぎの斬撃は、吐き出され迫り来る漆黒の炎をも容易く斬り裂き、大口を開けだらしなく長く伸びる首をも両断した。


 そのたった一閃で終止符を打った。


 そして残滓である漆黒の闇が霧散したあと、依代とでも言うべき存在――闇を纏っていた本体が、力なく横たる姿を曝し残っていたのだった――。



 ――――――――――
 実は世界を救いし裏の勇者だった⁉︎
 タダヒト、実は俺Tueee過ぎた男っ⁉︎ ∑(゚Д゚)
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