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第一部 運命の出逢い。それは――。

十一発目 危険が危ないキノコに頭痛が痛く、エロフ無双の大惨事。【中編】

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「――キズナさん。至急、保護結界を頼めるかしら?」

「儂にしても後ろを警戒しておくわ。前方のきのこへと追い込まれでもしたら洒落にならん」

「おっけ。なら範囲より個別のが良いか……。柔軟かつ強固な薄い皮膜を皆に被せておくわ」

 錫杖を地面に突き立て、それに凭れて縋りつき、扇情的に煽るような仕草で舞い踊った。

 更に額のサークレットに中指を立て、短いスカートから覗く綺麗な御御足おみあしを、いけない布地がちょっとだけよとチラ見えそうな角度で真っ直ぐに伸ばした、決めの悩ましいポーズ。

 最後にやり切ったわ的な不敵なドヤ顔を携えて、汗を拭う仕草から流れるように指をパチンっと弾く。

 その直後、俺達全員が淡い光に包まれ、薄々の膜が身体を覆った。


 ――って、長ぇ。長ぇよ、某エロフ。


 たぶん詠唱代わりの謎ダンスなんだろうけど、それって必須なんですか?

 しかし、茸と言うだけで何をおいても真っ先かつ不適切に騒ぎそうな御二方が、割と真面目に対処する――、


 してるよな? ――してることにしておこう。
 世の中には、知らない方が良いこともあるもんな。
 そのくらい危険が危ない、ちんち――なんでもない。


「俺は初めて目にするんですけど、そんなにあかんヤツなんですか?」

 だから割と真剣にそう尋ねた。
 クソ真面目な気持ちで。なまら真剣に。
 なのに――御三方ときたら……はぁ。


 水を得た魚の如く、不適切な笑顔で嬉々として語り出しました――。


「タダヒト――あれは直接攻撃はしてこないけど、刺激を与えられるとね、生臭い黄ばんだ濁り汁が先端から噴き出すのよ……あんな風に」

 寄生茸マットマーラーを指差し、アの女王が口を開く。
 それって――なんでもない。

「その噴き出た生臭い汁が付着すると、直ぐに乾いてガビガビに固着するの。そして汁に含まれる種――胞子が穴と言う穴から体内へと侵食して菌糸を伸ばし、全身へと張り巡らされるの。そして――自由を奪うと同時に、異常に興奮させる分泌物を浸透させ始め、その結果、悦ってしまうの」

「胞子を全部吐き出しきると途端にフニャフニャ。暫くはそのままだけど、刺激が加わるとまた直ぐに聳え立ってくるってわけ。――特に朝方は何もしなくても聳え立って、汁が漏れ出してることもあるから注意が必要よ」

 アの女王に続いて語り出す御二方。
 やっぱり――なんでもない。

「そしてここが重要、試験にでるわよ? 自分が巨大化したり、自分が増えまくったり、一定時間の無敵の身体を得たような、そんな摩訶不思議な幻覚を見せられた挙句――そのまま物言わぬ苗床と化して――次の新たな子孫を増やしていくのよ」

 なんの試験に出ると言うのか、某エロフは。

「実際、次々に個体を増やすことからついた蔑称は――ワンナップ1UPキノコ。言い得て妙だけど、囚われれば精神を蝕まれ続け、生き絶えるまで終わりなき悪夢を見せられる、言葉の馬鹿馬鹿しさ以上に厄介な――蝕物植物よ」

 まぢ? 馬鹿馬鹿しい以前に意味不明。

「上手く採取でもできれば、独り身の寂しいご婦人には高値……一本当たり数万エーン貨幣単位はくだらないと思うけど。一〇〇年ほど前に試みた強欲の強者が居たけど、結果は村が一つ群生地と化したわよ? そんな非常に危険が危ない蝕物だし、儂やキズナも見てると良い感じで疼くけど、流石にスルーが無難ね」

 独り身のご婦人に人気アイテムって……それってどう考えてもやっぱ、ちんち――なんでもない。


 とかなんとかと、終始、俺的に見慣れたいけない何かを連想させる、俄かに信じられないエロボケ発言、冗談としか思えない蘊蓄うんちくが連発。


 俺が無知なのを良いことに、ここぞとばかりに皆で担いでやしませんか?


「流石に長寿の森人エルフ鉱人ドワーフだけあって博識ね。あれに価値はなし、百害あって一理なし。――ま、そう言うことよ? タダヒト」

 アの女王が蝶柄マスカレイドなマスクから真剣な目を覗かせて、そんな御二方を肯定する。


 なんと――本当の話でしたか。
 エロボケとか疑ってすいませんでした。
 普段が普段のエロフさんにドワルフさんに加え、今は同格の痴女なマスカレイドさんなので、つい……。


「そんなわけだから、さっさと処分しておくのが最適解ね? ――頼める?」

「おっけ。あの人達も楽にしてあげないとね? 一緒に火葬してあげる」

「助けようにも既に手遅れだし、それが良さげね。悦ったまま生かされ続けるのはあの子らにも酷よ……次の犠牲者を産むだけの苗床なんてのは。――儂とタダちゃんは邪魔になるから後ろで待機しよっか……そんな顔しない」

 肩をポンの尻タッチ、更に謎の白い歯をニッカリで、野太くも優しい女性言葉で声を掛けてくれるゲイデさん。

 犠牲者らを救う手立てがないことに、苦渋の表情を浮かべる俺を、ワザといつもの変態然とした態度で気遣ってくれたんだろう。

「解りました……」

 ゲイデさんの後ろに付き従い、キズナさんの邪魔にならないよう、この場から下がることにした。


 その時――。


「おにぃた――おにぃちゃんは、だいじょうぶ? なの?」

 顎に指を当てて、心配そうに尋ねてきたナイチチちゃん。

「俺? ……あ、うん、大丈――」

 ナイチチちゃんも元気のない俺を気遣ってくれたのだろうと思い、大丈夫だよと言いかけた。


 だがしかし。


「ちっちょいの、はえてた」

 心に染み入る悪意なき呪詛が解き放たれた――。


 おうふ。


 って、こらこら、こらこら! 待て待て、待て待て!
 純真無垢なあどけない天使ちゃんが、言って良い類いの言葉では断じてな~いっ!

 他意のない正直な疑問、更に寄生茸マットマーラーを生やしててなんともないのかと、俺の身を案じてくれているって言う、純粋な気持ちから出た悪意なき呪詛って解るから良かったものの――、


 意味が解っててさる部分を指し示し『HAHAHA、ちっちょいね?』とか言われた日には、俺は甘んじて死を選ぶ――。


 だがしかし……だがしかし……。
 しれっとディス悪意なき侮辱られ、存外、しょげているって事実は止むなしとして、だ!


 無垢な天使にその違いを説明することができない――。


「ちがうにょ――の?」

 不思議そうに顎に指を当てて、上目遣いのはにゃっと首を傾げてくる容赦のないナイチチちゃん。

「くっ……なまら可愛い過ぎかよ!」


 その幼女、天使につき。それに尽きる。


「ぷ――大丈夫よ? ちっちょい茸だと――ぷ。茸でも別種の大人の――無理。ぷ、あははははは~」

 俺の代わりに説明しようとして、早々に諦めたゲイデさんは腹を抱えて大笑いときた。

「ちっちょくても大きくなるわよ? 大きくなってもちっちょいままかもだけど――くっ」

 俺から目を背け、肩を震わせ笑うキズナさん。

「タダヒトのは色んな意味で良い物だから、何も心配ないわ――ちっちょくても」

 マスカレイドなマスクで隠しちゃいるが、明らかに目は笑っていたアの女王。

「よく、わかんない?」

 やっぱり不思議そうに顎に指を当てて、上目遣いのはにゃっと首を傾げていた純真無垢のナイチチちゃん。

「ななな、なんつーことを純真無垢な美幼女に、それとなくしれっと吹き込んでんだよ、アンタらはっ⁉︎」

 しかもどさくさ紛れに俺をディスるのもきっちり忘れないそのしたたかさに脱帽だよ⁉︎


 だがしかし……だがしかし……。
 あどけない純真無垢な美幼女に、この違いを説明することがやっぱできなかった――。


「出して見せてあげれば良いのよ?」

「で、犯罪臭漂わせて、大人の階段を登ると」


 とかなんとか。


 大人の階段を登る前に、絞首台の階段を登らされるわ。


 そんな感じの不毛なやり取りが、緊迫した状況下で暫く続くのだった――。



 ――――――――――
 悪意なき呪詛は天然?
 タダヒト、なんて可哀想な子っ⁉︎ ∑(゚Д゚)
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