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第一章 俺、改めて、ボク――。
05. 右目と右手がすげかわっていて、知らない女性が居る。
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キショい目ん玉に右目を抉られたボクは、気絶したあとの記憶がないものの、どうやら死なずに済んだらしい。
今は単に目を瞑ったままに身体を投げ出して、静かに寝っ転がっているっぽい。
ただ何故か頭が揺れているような気がする。
更にボクの頬っぺたを何かにペチペチされているような気もする。
意識が朦朧として未だ定まらない中、これだけはちゃんと理解できた。
(触手が蠢いてるのかな……だったら嫌すぎるな。でもなんだろう? 周囲の気配を察知する感覚だけが、妙に鋭さを増して研ぎ澄まされたような……誰かが側に居る?)
不思議なことに漠然と、だけど。
『ちょ――君――大――⁉︎』
吃ってて所々が聴き取り難いけど、側に居るらしき人物の声がちゃんと耳に届いている。
微かに油の混じった金属と、汗くっさくも酸っぱい臭いが鼻につく。
それでいて妙に甘ったるい香りも微かにする。
「やっと気がついたっ! 君、どうしてこんな所に? しかも裸で? もしかして辱められて放――ううん、なんでもない」
心配そうに、それでいて困ったような、やや艶のある甘い美声が、それこそ耳元ではっきり聴こえた。
薄っらと瞼を開くと、地面に寝っ転がっているボクの頬っぺたを、ひたすらペチペチと叩いていた人影がぼんやりとだけど見えた。
「くっ……」「大丈夫?」
ボクがのっそりと上半身を起こそうとすると、優しく助けて起こしてもくれた。
(――誰?)
次第に意識や視界がはっきりしてきたボクの目に映ったのは、滑稽な目玉の模様が描かれた布で、目を覆い隠している不思議な女性だった。
顔が土や埃で煤けて少し汚れているも、色白の肌といい潤んだ桃色の唇といい、十代後半から二十代前半の整った顔立ち。
元は綺麗であろうプラチナブロンドの髪は、邪魔になるのかシニヨンスタイルに纏めている。
目隠しの所為で確証はないけど、おそらく美人と思っててまず間違いはない。
女性特有の身体のラインを崩すことなく、姫騎士然とした美しい白銀の鎧で身を固め、腰にはこれまた如何にもな儀礼用に等しい、ど派手な装飾の施された片手剣を携えていた。
ボクの頬っぺたをペチペチと叩く為に白銀の小手を外してくれていたのか、右腕のみが素手。
姫騎士然とした見た目と反して、華奢ですべすべとは言い難い豆だらけの手をしていた。
「見たところ、外傷はなさそうだけど――」
「――えっ⁉︎ ボクの怪我が……ないだってっ⁉︎」
「ど、どうしたのっ⁉︎」
そんな、一風、変わった女性を呆然と眺めていて、怪我がないかと問われた瞬間、ボクは我に返り驚きを隠せずにいた。
(う、嘘だろっ⁉︎)
抉られて喰われたであろう筈のボクの右目が、普通に見えていることに。
触って確認しようとした右手が、赤い爪こそ短くなっているものの、あの不気味な手首にすげかわっていることに。
更に手の甲には、紅色の部分が半分以上を占めて残りは蒼色になっている、触るとブニブニする謎の半球体が埋め込まれていたことに。
「すいません、鏡とか持ってます?」
実際に見て確認しようと、そう尋ねる。
「え、鏡? 似たような物で良ければ……」
背負っていた盾を下ろし、ボクに手渡してくれた。
結構な重量のあるそれは、表面が鏡面仕上げの美しい盾。
どうやらこれを鏡代わりに使えと仰るようなので、素直に覗き込んでみる。
(あちゃ~っ⁉︎ やっぱりボクの目ん玉がすげかわってやがるよっ⁉︎)
左目は元の銀色のまま。だがしかし、右目は瞳孔が縦に細い金色。
所謂、左右の瞳の色が違うオッドアイとなっていた――のだが。
(あ。丸くなった……猫かよっ⁉︎)
盾に映り込む左目と同じ大きさに合わせて、瞳の色は金色のままに、突如、変化――否、擬態しやがった。
「……有難う御座いました」
胡座を組んでドカリと座るボクは、借りていた盾を力なく返して、得体の知れない未知の物を身に宿したこの状況を、どうしたものかと思案する。
地面に投げ出された背嚢と、所々にボクが流したと思しき血の痕跡――身体や顔にも赤黒く変色してこびりついて残るそれらが、ボクの身に起きたことは紛れもない事実と物語っていた。
「どういたしまして――って、それは良いのだけれど……どうしたの?」
盾を受け取るついでにボクの隣に座る女性は、自分の盾を覗き込んで百面相をしつつ、怪訝そうに首を傾げていた。
―――――――――― つづく。
今は単に目を瞑ったままに身体を投げ出して、静かに寝っ転がっているっぽい。
ただ何故か頭が揺れているような気がする。
更にボクの頬っぺたを何かにペチペチされているような気もする。
意識が朦朧として未だ定まらない中、これだけはちゃんと理解できた。
(触手が蠢いてるのかな……だったら嫌すぎるな。でもなんだろう? 周囲の気配を察知する感覚だけが、妙に鋭さを増して研ぎ澄まされたような……誰かが側に居る?)
不思議なことに漠然と、だけど。
『ちょ――君――大――⁉︎』
吃ってて所々が聴き取り難いけど、側に居るらしき人物の声がちゃんと耳に届いている。
微かに油の混じった金属と、汗くっさくも酸っぱい臭いが鼻につく。
それでいて妙に甘ったるい香りも微かにする。
「やっと気がついたっ! 君、どうしてこんな所に? しかも裸で? もしかして辱められて放――ううん、なんでもない」
心配そうに、それでいて困ったような、やや艶のある甘い美声が、それこそ耳元ではっきり聴こえた。
薄っらと瞼を開くと、地面に寝っ転がっているボクの頬っぺたを、ひたすらペチペチと叩いていた人影がぼんやりとだけど見えた。
「くっ……」「大丈夫?」
ボクがのっそりと上半身を起こそうとすると、優しく助けて起こしてもくれた。
(――誰?)
次第に意識や視界がはっきりしてきたボクの目に映ったのは、滑稽な目玉の模様が描かれた布で、目を覆い隠している不思議な女性だった。
顔が土や埃で煤けて少し汚れているも、色白の肌といい潤んだ桃色の唇といい、十代後半から二十代前半の整った顔立ち。
元は綺麗であろうプラチナブロンドの髪は、邪魔になるのかシニヨンスタイルに纏めている。
目隠しの所為で確証はないけど、おそらく美人と思っててまず間違いはない。
女性特有の身体のラインを崩すことなく、姫騎士然とした美しい白銀の鎧で身を固め、腰にはこれまた如何にもな儀礼用に等しい、ど派手な装飾の施された片手剣を携えていた。
ボクの頬っぺたをペチペチと叩く為に白銀の小手を外してくれていたのか、右腕のみが素手。
姫騎士然とした見た目と反して、華奢ですべすべとは言い難い豆だらけの手をしていた。
「見たところ、外傷はなさそうだけど――」
「――えっ⁉︎ ボクの怪我が……ないだってっ⁉︎」
「ど、どうしたのっ⁉︎」
そんな、一風、変わった女性を呆然と眺めていて、怪我がないかと問われた瞬間、ボクは我に返り驚きを隠せずにいた。
(う、嘘だろっ⁉︎)
抉られて喰われたであろう筈のボクの右目が、普通に見えていることに。
触って確認しようとした右手が、赤い爪こそ短くなっているものの、あの不気味な手首にすげかわっていることに。
更に手の甲には、紅色の部分が半分以上を占めて残りは蒼色になっている、触るとブニブニする謎の半球体が埋め込まれていたことに。
「すいません、鏡とか持ってます?」
実際に見て確認しようと、そう尋ねる。
「え、鏡? 似たような物で良ければ……」
背負っていた盾を下ろし、ボクに手渡してくれた。
結構な重量のあるそれは、表面が鏡面仕上げの美しい盾。
どうやらこれを鏡代わりに使えと仰るようなので、素直に覗き込んでみる。
(あちゃ~っ⁉︎ やっぱりボクの目ん玉がすげかわってやがるよっ⁉︎)
左目は元の銀色のまま。だがしかし、右目は瞳孔が縦に細い金色。
所謂、左右の瞳の色が違うオッドアイとなっていた――のだが。
(あ。丸くなった……猫かよっ⁉︎)
盾に映り込む左目と同じ大きさに合わせて、瞳の色は金色のままに、突如、変化――否、擬態しやがった。
「……有難う御座いました」
胡座を組んでドカリと座るボクは、借りていた盾を力なく返して、得体の知れない未知の物を身に宿したこの状況を、どうしたものかと思案する。
地面に投げ出された背嚢と、所々にボクが流したと思しき血の痕跡――身体や顔にも赤黒く変色してこびりついて残るそれらが、ボクの身に起きたことは紛れもない事実と物語っていた。
「どういたしまして――って、それは良いのだけれど……どうしたの?」
盾を受け取るついでにボクの隣に座る女性は、自分の盾を覗き込んで百面相をしつつ、怪訝そうに首を傾げていた。
―――――――――― つづく。
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