上 下
8 / 12
第一部 現代編――。

第八話 枷は突然に。

しおりを挟む
「そういやマリー。この間のスク水写真さ、凄い勢いで注文が入ってたぞ?」

 数日前に撮った、マリー本人だけが恥ずかしい極真っ当な写真をネットに晒し、生写真の個人売買を試してみた。
 それがことの外大好評で注文が殺到し、驚くほどの大金が一瞬で舞い込んだ。

「妾じゃからな? 小童の幼い容姿とはいえ、衆目が目を奪われるのは当然じゃっ! ただ下衆い衆目の卑しい目に晒されておるってのが、どうにも気色悪いんじゃがの?」

 床に寝っ転がって短い脚をパタパタしつつ、俺の林檎印のタブレットで読書中のマリー。

「マリーの犠牲――ゲフン。おかげで家賃と電気代が賄えるよ。次も頼むわ――って、さっきから何を真剣に見てんだ?」

「ん? この小汚い部屋から自由に出られぬゆえ、暇潰しがてらこの世界の文芸とやらを嗜んでおった。妾とは追放された理由がちと違うが、『ゆーちゅーばー』なる者が伝説の人になっていく様が実に面白うての?」

 どうやら小説投稿サイトを見ていた模様。

「妾の世界は主も知っておるように、羊皮紙に暗号のような汚い手書きじゃ。見辛くてかなわん。その点、この『たぶれっと』なる物は色鮮やかで見易く、使い勝手も洗練されておって便利で実に良い。最早、これは妾の物じゃっ!」


 いや、唯一のそれを占有されると、俺が非常に困るんだが?


 でもまぁ、そうだろうな。俺も向こうに転移させられてまなしは、カルチャーギャップ文化間の相違に色々と言うか、散々、苦労させられたし……。
 それにしても今流行りのゆーちゅーばー、か……お、良いことを思いついた!
 天才、現るって閃き! これは、神託!


「なぁ、マリー――」「嫌じゃ!」

 不適切な笑顔になった俺が言い掛けた途端、被せ気味に拒否って後退るマリー。

「尋ねる前に断わらな――」「絶対に嫌じゃっ!」

 不適切な笑顔のまま俺がそっと手を伸ばすと、マリーは一瞬で壁際にへばりつく。

「ご、誤解のないように言うけど。写真があれだけ好評だったんならさ、動画配信してみたらもっと良いかなって……」

 不適切な笑顔を改めて、唐突に閃いた資金調達の具体案をマリーに話してみるも。

「やはり主は妾を辱めることしか思いつかんのじゃなっ⁉︎ 破廉恥極まる格好や姿勢をさせる気、満々、なんじゃろっ! 嫌じゃっ! 絶対にい・や・じゃっ!」

 耳にした途端に真っ青になって、へばりついた壁に沿って徐々に距離を取って逃げ出した。


 逃げても無駄だゆーに。理由なくここからは出られないんだから……ふっふっふ。


「マリアお嬢様。動画配信なされば恩を返せるところか、至高の逸品であるアイスクリームも食べ放題に御座います。当然ながら、毎日の食事も豪華絢爛になることも間違いなしに御座います――はぁはぁ――そう。これは致し方なきことに御座います――はぁはぁ」

 反対側から下衆いおっさんの醜い顔を歪ませて、マリーを懐柔しようと試みる下衆徒君。


 天才ならぬ、変態、現るだった。


「下衆っ! ならば何故にそんな下衆い顔で身悶えておるのじゃっ⁉︎ あまつさえ、その手に持っておる如何わしい物は何じゃっ⁉︎ 最早、妾が辱められる嫌な未来しか想像できぬわっ! その卑しい顔も生理的に受け付けぬっ! よ、寄るでないっ! 妾が穢れるっ! 孕むっ!」

 俺よりも下衆徒君に身の危険を感じたのか、俺に飛び付き背後に隠れ、必死に抗議するマリー。


 やっぱ弄ると可愛いな。


「おっふ。流石はマリアお嬢様。私めの思惑を最も易々と簡単かつ正確に直ぐ様一瞬で見事に見破るとは――」

 クックックッと下衆い笑いを携え歪みきった下衆いおっさん顔は、流石の俺もちょっと受けつけない。
 そんな自称、真摯な変態紳士の下衆徒君が、しれっと手にしていた如何わしい物とは?


 時間を吸い取る魔導具ただのデジタルビデオカメラと、薄く卑猥なまりあんぬ競技選手が纏う衣と書かれた競泳水着


 更に如何わしい道具単にアヒルの浮き輪もちゃっかり用意する周到さ。
 見目麗しい美幼女にそれは、紳士諸兄に対しての破壊力が実に半端ない。
 中々にドSだな……って、何処から出した? なんで持ってんだ? いつ買った?

「下衆徒君はマリーに何をさせようとしてんのかな? 流石にそれは――うん、アリかな?」

 下衆徒君を直視したら俺がヤバいので軽く視線を逸らし、背中に隠れるマリーをひょいと掴んで肉盾にする。

「ま、待つのじゃ~っ⁉︎ わ、妾があまりにも不憫じゃ~っ⁉︎ お、お主らは悪魔かっ⁉︎ 魔王かっ⁉︎」

 幼い手足を必死にバタつかせ、なんとか逃れようと抵抗するマリー。


 その時だった――。


『――サバト様。お愉しみ中、申し訳御座いません。たった今、漂流者がこの付近に流れ着いたとの通達を受信致しました。ゆえにマリア様と下衆徒様。取り急ぎ、枷の任を遂行するように申し上げます』

 充電中のミサがすくっと立ち上がり、いきなりそんな事を言い出した。

「――えっ⁉︎ 漂流者だってっ⁉︎ 何処っ⁉︎」

 羽交い締めで抱きかかえていたマリーを解放し、ミサに問う俺。

『四丁目の工事現場付近に御座います。意識があるのか、対象は現在も移動中に御座います』

 目を瞑り周囲の状況把握に務め、知り得た情報を皆に開示するミサ。

「わ、妾の出番じゃなっ! 助か――ほれ、何をしておる、早ようせぬかっ!」

 ない胸を撫で下ろし腰に手をやり、ミサに指を突きつけて封印解除を要求。
 さっきまでの蒼褪めた表情を一転し、高慢ちきな態度で指示するマリーだった。

「おっふ。残念では御座いますが、優先すべきは枷。……誠に遺憾では御座いますが……誠に……」

 項垂れる下衆徒君。君は本当に下衆だな。

「要らぬ。保護だけであるならば妾だけで事足りよる。貴様は妾に働いた狼藉を暫し反省しておれ」

「おっふ」

「保護対象は人か? 亜人、或いは――」


 問題はここ。
 来たのか、流されたのか、だ。
 もしも人や亜人が術式などを用いて渡ってきた場合は、気絶程度か混乱ぐらいで済み、直ぐには動けないものの、比較的安全に世界を越えてやって来る。


 だがしかし。意図せず流されてきた者であった場合、例外なく瀕死に陥ることになってしまう。


 それは世界を隔てる壁――世界結界を越える際、伸し掛かる排除力に耐えられないからだ。
 最悪は命を落とす羽目に陥る――だから保護する訳。

 直ぐに移動している状況から察するに、世界結界を突き破れるほどに強大な力を持つ者、或いはそれ相応の魔物と予想される。
 それは、絶対に放置してはならない類いの招かれざる者――ってのが、普通なんだけど。



『――彼の国ののように御座います』



「「「――はっ⁉︎」」」

 ミサの告げた言葉に、三人とも素っ頓狂な声を上げて固まった――。



 ――――――――――
 悪戯はまだまだ続く。(笑)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

現代に追放された悪役令嬢と従者が六畳一間での貧乏暮らしを強いられることになりました――が、今度は異界で一騒動。家主の俺と家政婦も一緒にです。

されど電波おやぢは妄想を騙る
ファンタジー
 現代に追放された悪役令嬢と従者が六畳一間での貧乏暮らしを強いられることになりました――が、今度は異界で一騒動。家主の俺と家政婦も一緒にです。  またもや表題そのまんまですね(笑)  

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】悪役令嬢のざまぁ回避奮闘日記〜誰も親友の男なんか寝取りたくないんだって!〜

るあか
恋愛
 私の好きな乙女ゲーム『王宮学院魔道科』  それは、異世界の男爵令嬢に転生したヒロインが国直属の貴族しかいない学校『王宮学院』の魔道科へと入学する話。  途中色んな令息といい感じの雰囲気になるけど、最終的には騎士科の特待生である国の第ニ王子と恋仲になってハッピーエンドを迎える。  そんな王宮学院に私も転生したいと思っていたら、気付いたらその世界へと転移していた。  喜びも束の間、自分の名前を知って愕然とする。  なんと私の名前の登場人物はヒロインの親友で、彼女の彼氏を寝取ってしまう悪役令嬢だった。  確かこの令嬢の結末は自分の行いのせいで家が没落貴族となり、破滅を迎える設定……。  そんな結末嫌だ!  なんとか破滅を回避するため必死に行動してみるが、やっぱり結末は同じで……  そんな時、ヒロインの魔法アイテム『時戻りの懐中時計』を自分が持っている事に気付く。  ダメ元でそれを発動してみると……。  これは、悪役令嬢役に転生した私がざまぁを回避するため何度も時を戻り、ハッピーエンドを目指す物語。  そして奮闘している内に自身も恋をし、愛する人を味方につけて、ゲーム内の裏設定を色々と探り、真のハッピーエンドを追い求めるラブコメファンタジーである。 ※エールありがとうございます!

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...