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第四章──暴かれ出した真実

100 years ago

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「か、か、か、神様ァァ!!?」

「ま、ま、マキナ様!? マキナ様って、えぇ……!?」

存在は知っていた。テンキが転生前に会ったと言うし、その存在があることはテルも知っていた。

だが、何故、今ここに?
テルも、シエラも思考がまとまらずに口をパクパクさせる。

『あなた達が時空の狭間に来たのを見て好機と捉えました。特に篠崎 輝。貴方には会いたかった』

「お、俺に……?」

あまりの急展開に、脳がついていかない。
神様が、テルなんかに会いたいとは一体どういう了見なのか───。

『篠崎 輝。貴方は覚えていないでしょうが、確かに転生の際、私は貴方と会っているのです』

「はぁ!?」

ない、絶対会っていない。テルは転生の際、ここが夢の中かどうかの認識さえも迷ったほどだ。そんな案内など、微塵もなかった。

「ちょ、ちょっと待って。覚えていない……って、どういうことなの……?」

指摘するシエラに、神は答える。

『篠崎輝。貴方がこの世界に転生したのは───』

そしてその後に続いた言葉は、テルの理解を大きく飛び超えた。

『───百年も、前のことなのです』

「ひゃ……!? え、でも、テルは……」

『順に話しましょう。ここにいられる時間も長くはありませんから』

ふと見れば、テルもシエラも体が透けていた。
転移が近い証拠だ。

「な、なるほど……それじゃあ、俺にも理解できるよう頼むぞ神様」

『えぇ、もちろん』

神様──マキナの口から、にわかには信じ難い話が。
闇に覆われていた真実が、飛び出していく。



■ ■ ■

世界に魔王が生まれ、均衡が崩れました。
同じ時をして生まれるはずだった勇者は、不幸にも流産……。
世界が破滅に追いやられようとしていたのです。

その様子を見ていられなかった神……私は禁じ手を使い、異世界の者に勇者の資質を与えて召喚しました。

それが貴方──。
篠崎 輝です。

「……ってまてまてまてまてまて!!! 俺が勇者だと!?」

「テル、とりあえず聞こう? さっきも言ってたとおり、時間はもうないよ」

「あ、あぁ……ごめん」

勇者に与えられた力は膨大で、瞬く間に魔王を倒してしまった。
この時神である自分もまた歓喜し、見落としていたのです。

「見落とし……?」

そう、見落としです。余りにも大きく……余りにも絶望的な見落としでした。

異世界からの召喚、あるいは神の世界への介入、あるいは───。

例をあげればキリがないほど、シノサキ テルという存在はイレギュラーでした。

そのイレギュラーが、『魔王によって支配される』実際の状態を歪めたのが失敗でした。
まるでその歪みを修正するがごとく、影がこの世に蔓延ったのです。

「影……アイツ、か……」

貴方はその結果魔王の封じ込められるはずだった陣に封じられ、そして今百年の時を経て復活したのです。

それが、貴方の転生の真実です。

「お、おい、それならアイツは、テンキはどうなるんだ!?」

「そ、そうだよ!! あの人も転生した勇者だって……!!」

あの者は私が召喚したのではありません。
神が二度同じ過ちを繰り返すと思いますか?

「な……!?」

「うそでしょ……じゃあ……!!」

……この世界を、また絶望が覆いつくさんとしているのです。

あの者……志賀 天希もまさに今利用され、それに巻き込まれようとしています。

……全てを救うため、この世界を存続させるため。

貴方の力を、再び貸してください──篠崎 輝。

「……でもそれって、アイツの事なんだよな……? 神様だってんなら知ってるだろ。俺はまるで歯が立たなかったんだ……俺にアイツは……倒せない……っ」

「テル……」

……具体的な指示はまた、災厄を引き起こすキッカケになりかねません。

故に私は貴方を信じます。
一度世界をいとも容易く救ってみせた貴方が、必ず正解にたどり着くと信じています。

篠崎 輝。を、しっかり考えてください───。

「それっ、て、どういう──?」

……時間切れのようです。篠崎 輝。
これ以上はまた歪みを発生させかねません。
また、会える日が来ることを願っています──。

「お、おい、まだ質問は───」



■ ■ ■

どうせ、死ぬなら──と。
シエラは、命を明け渡したはずだった。
こんな命に、最早価値などないと思っていた。

それが、今はどうだ?
数々の人達の後押しと、死を乗り越えて自分は立っている。
もう口が裂けても、価値がないなどとは言えない。
何より、今の自分の傍にはテルがいた。

テルがいなければ。
シエラはあの泥水を啜り、地べたを這い蹲る生活から抜け出すことは叶わなかったろう。

テルがいなければ。
シエラは、こんな温かい気持ちを知ることはなかっただろう。

シエラは、テルの影を取り除いてやりたい。
テルが自分にそうしてくれたように。

テルはこんな自分を好きだと言ってくれた。
こんな自分でも、人を好きになれた。

いずれ、体を取り戻したテルの隣にシエラは立ちたい。
いつまでも横で支え、支えられていたい。
二人はずっと、だから。

自分に何が出来る? 
考えることが出来る。
テルが実技で、シエラが頭脳。
その関係は、最初出会ったあの頃から何も変わってはいない。

だから───神に与えられたヒントから、答えを導き出すのはシエラだ。
シエラでなくてはならない。

テルが成すべきこと、と神は言った。
つまり、テルが成さなくてもいいこともあるということだ。

まず、最悪のパターンから考えよう──。
あの影の男の言葉、神様の言葉、全て思い出して。

─「強くなったなぁ」

──「及第点だろ」

───「神に勝てる」

あの男は、テルが強くなったのを嬉しがっていた。
───及第点、何がだ?
マキナ様に勝てる? ──つまりこの影の強さに、テルの強さが影響するということだ。

テルの力を、影は狙っている。

吸収、あるいは乗っ取りか。その方法は定かではないが、ともかくテルの力を狙っている。

つまりテルは、これ以上ヤツと関わるべきではない。最悪パワーアップを促してしまう。

では、やるべき事とはなんだ?
この黒い影の相手は、誰がするのだ??

─────思考をフル回転させて、考えろ。

脳が焼き切れるのを恐れるな──!!

勇者。転生者。二人。テル、テンキ、歪み───。

「(まさ、か)」

テンキを生み出したのは影で間違いない。
では、それは何故?

何故わざわざ自らの敵となりかねない、勇者を異世界から召喚した!?

テルを、弱体化させるため?
世界に勇者は一人しか存在できない。それを利用して、テルの弱体化を目論んだ?

……違う!! 
影はテルが強くなったのを喜んでいた。

テルの弱体化はむしろデメリットであり、それを考慮しても有り余るほどのメリットがどこかにあったはずだ。

「志賀 天希もまさに今利用され──」

「イレギュラーが、『魔王によって支配される』実際の状態を歪めたのが失敗──」

──更なる歪みを、発生させるためだ。

勇者と魔王は世界の理。異世界から勇者の立場を奪った者が魔王を打倒すれば───。

───影は、更に力を増すことになる。
単純計算でも二倍だ。

そもそも、影は最初封印されたテルを狙って教会を襲撃していた。
つまり、テルが強くなるのは奴にとっては誤算。

テル単体を取り込んだ時点で「神に勝てる」なら、更に歪みを作り出したその時奴はどれほどパワーアップしてしまうのか。


つまり、テンキは魔王と戦ってはいけない。
影のパワーアップを促すから。
そして、テルは影と戦ってはいけない。
影の、パワーアップを促すから───。

────そして、答えが出た──その瞬間。

「(……!! そう、だ!)」


転移光が完全に止み──シエラは再び、思念体としてそこにいた。

そして一言、発する。

『テル。魔王を探しに行こう』

「……は……?」

それがシエラの捻り出した、最善の策だった。



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