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第三章──光の勇者と学院生活

幸せそうに死ぬなよ

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「…………寝てた、のか」

全く、自分はよく気絶する人間だ。
前に限界まで戦った時もすぐ気絶してしまった。

『仕方ないよ……壮絶すぎたもんね』

「あぁ……そうだ、あの後どうなった」

前と同様に、テルは事の顛末をシエラから聞き出した。

まずダゴマの腕だが、回復魔法でも再生しなかったので、魔法義手マギ・メイルという本人の意思のまま動かせる義手を取り付けたらしい。
腕がなくなったのは残念だが、今まで通り過ごせるなら良いだろうとテルはほっとした。

───そして。

「…………ヴェイン」

様々な魔法陣が蠢いて稼働しており、真ん中にはヴェインの肢体が安置されている。
その隣に、テルは立って呆然としていた。

───ヴェインは、助からない。

「……なんでだ」

自分を見つめ直して、新しい人生を送るんじゃなかったのか!?
これではあまりにも……あまりにも救われないだろう!!

「なんで、だ……」

何故自分はこうも弱いのか、とテルは自責する。
助けられ、別の何かを犠牲にし、それが無ければ生き抜くことが出来ないのは何故だ。

『テル……』

シエラも、同じ気持ちだったが──それ以上に。
自分を責め続けるテルを、シエラはこれ以上見ていられなかった。

「…………シエ、ラ─────」

「バカ、喋るな! 寿命が縮まっても知らないぞ……!」

だが、ヴェインは続けた。
既に絞りカスとなった命をなおも燃やした。

「俺……は、初めて、いい事、したと……思う、んだよ……俺の、おかげで、よ。助かった、だろ───?」

「ああ、すっげぇ助かったよ。お前がいなかったら、お前があの時前に来てくれなかったら俺たち諸共死んでたよ!! だから、お前、お前だけ死ぬなんて絶対に許さないぞ……!!」

「…………別に、死ぬのァ……もう、受け入れてんだ。────ただ、よォ、……ごフッごフッ……ひと、つだけ。死ぬ前に…………シエラ、お前の口から、言って欲しい言葉が……あんだ」

──言って、欲しい、言葉───?

「俺はまだ、『ありがとう』、って、聞いて、ねェ」

「…………あぁ、本当に、本当にありがとう、ヴェイン。お前は───俺たちの、命の恩人だ」

「は、はは─────俺、が、命の恩人、かよ、ははは…………ゲフッがハッ、うっ、ァ……」

「おい!!!」

血を吐いて悶えるヴェインに、テルは何もしてやれない。
テルはまだ、他人に魔法を使うことができない。

───最期にヴェインは。

「…………少しは」

生きていた意味、あったかな──────。


そう残して。
与えられた命の炎を、燃やし尽くした。

「ヴェイ、ん…………」

テルには、朧気ながらヴェインの心情を理解出来た。
テル達を救う善行をすることで初めて、彼は心の底から生を実感したのだろう。

何故なら。

「そんな、ぁ、幸せそうに、っっ、死ぬな、よぉお…………っ!!」

ヴェインの穏やかな笑顔を、テルもシエラも初めて見たから。

『ヴェインさん……』

テルは生きる尊さと生きる意味を知って、与えられて、ここまで生き抜いてきた。

ヴェインは生きる尊さを知って、意味は自分で模索しなければならなかった。

『助けたかったんだ……あの時の、テルみたいに』

「俺は……俺は……」

何も助けられてなんかいない。
自分のように、ヴェインもまた変わることができるなどと言っても──。

その結果がこれでは、あまりにも報われない。

自分は何も分かっていやしなかったとテルは思う。
自分は恵まれすぎているのだ、と。
シエラと人生を共有することで、テルは自分の命を無下に扱うことが出来ないのだ。

そして──彼は違った。
結果起きたのは、自己犠牲だった。

「俺が、殺したも同然じゃないか……!!」

『テル!!』

血が出そうになるほど拳を握りしめたその時、シエラの凛とした声がテルを引き戻した。

『確かに……悲しいよ、でも、ヴェインさんは、最後の最後で幸せだったんだよ!! テルがいなきゃ、この人は、この幸せは掴めなかったの……ッ!! 生きる意味を失くして生きるなんて、そんなの死んでるのと変わらないじゃない!! テルが生き返らせたの、テルが、テルが最後にこの人に命を与えたの!! だから、自分を責めないでよ、そんなんじゃヴェインさんも報われないよ……』

生きる意味を失くして生きる。
生きる意味がある代わりに死ぬ。

本当にヴェインは、幸せに死ねたのか。
そもそも、幸せに死ぬとはなんだ。

「もう、分かんねえ、分かんねぇよ……」

静まった病室で、テルは生死の葛藤の中から抜け出すために小さく、絞り出すように呟いた。

「……ヴェインは、幸せ、だった」

『うん』

「事実はどうあれそうやって俺が前向きに考えねえと、アイツが報われねえ」

『うん』

「アイツが俺たちのために死んだんなら、俺がアイツの生きる分まで引き受けてやるんだ……ッ!!」

またひとつ、死ねない理由が増えた。



■ ■ ■

「今月の給与と査定結果です、お受け取りくださいシエラ様」

「あぁ、ありがとうシズルさん──って、重ッ!?」

どれだけの金貨が入っているのだ、これは。
ある程度予測していたとはいえ……これは。
庶民のテルには金貨の山はあまりにも毒だ。

「最下層のゲートモンスターの討伐おめでとうございます、査定は見なくても分かると思いますが、一応私の口から。───勇級冒険者の身で最下層を攻略する前代未聞の事件、その圧倒的な武勇に尊敬の念を表し、ここに昇格の権利を授ける───以上です」

「──────は?」

間抜けな声が出た。

『……やっぱり』

知的な声が出た。

「報酬の方は一応100万ジストを渡しておきますが、実際は約一千万ジストの給与になります。これだけのお金を用意するとなると流石に面倒が多いので、使用する際はこちらで」

「……小切手?」

『そう、みたいだね』

「一千万?」

『そうだね』

「帝級?」

『うん』

しばらくの間テルは、ぽかーんと大口を空けていた。大間抜けだ。

最下層のゲートモンスターなどというとてつもない物を倒したのだから、当然と言えば当然の報酬なのだが。

──そうして、帝級などという称号を貰ってしまったテルがようやく事態を飲み込んだその時。

「シエラちゃん、話しておかなきゃならねぇことがある」

やけに神妙な顔でダゴマが、そうテルに告げた。
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