上 下
23 / 32
異国から愛を込めて

5

しおりを挟む
夜中に目が覚めてしまい、大河はキッチンに行って水を飲もうと思った。
リビングにはヒューが寝ているので、起こさないように静かにリビングのドアを開けた。
ソファがギシギシと音を立てていて、大河はその場から動けなかった。ヒューがこちらに背を向けて座っている。だが、ヒューだけではないとすぐ分かった。
ドキンドキンと心臓が音を立てていて、大河はその音が気づかれるのではと思ってしまった。

「やめろ、ロイ」

ヒューの色っぽい声に大河はさらに動けない。

「やめて、くれッ!」

ヒューが何をされているのか大河は分かっている。
気づかれないようにリビングを出ようとしたが足が動かない。

「あッ!やめ、ろッ!」

ヒューがそう言った後、人影が動いた。ロイが立ち上がった。
薄明かりの中で、大河とロイの目が合った。ロイがフッと笑った気がした。

「ヒュー、気持ち良かった?いっぱい出たよ」

大河はそれを聞き、顔を下に向け振り向くとドアを静かに開けてリビングを出る。
放心状態のままダニエルの部屋に戻ると、タオルケットを頭から被った。
ヒューがロイにされていた事を思い出すと心がチクチクと痛む。
ヒューは抵抗していたが、ロイにされる事に抗えなかった。
自分はどうしてこんなにモヤモヤするのか分からなかった。
ヒューに伊丹を重ねて、ヒューとロイに嫉妬している自分が滑稽だと思った。
そして、もうこの部屋に来るのは辞めようと決めた。
次の日の朝、大河は朝食も食べずに帰ろうとする。

「どうしたの?タイガ。なんだか顔色が悪い」

心配そうにダニエルは言う。

「風邪を引いたかも。また後で研究所で会おう」

力なく微笑んで大河は部屋を出た。
ヒューはロイと目を合わせずにコーヒーを飲んでいる。
大河が帰るとロイがヒューに言った。

「夜中の僕たちのこと、タイガに見られたみたい。日本人には刺激強かったかな」

楽しそうにロイは言う。大河を見送ってきたダニエルが戻ってくるとロイは黙った。ヒューは昨夜のことを大河に見られたことが恥ずかしくて悔しかった。

「熱はないと思うけど、心配だな」

ダニエルはそう言ってコーヒーを啜る。ヒューは立ち上がる。

「タイガを送ってくるよ。途中で倒れたら大変だ」

走るようにヒューが部屋を出て行ってダニエルはびっくりした。
ロイは面白くなさそうに、チッと舌打ちした。

「ダニエル、ご馳走さま。僕もこれから仕事だからもう行くね。それと、もうここには来ないから。ヒューとは外でデートするよ」

ロイの言葉にダニエルはロイを睨む。

「どう言うこと?ヒューはロイとはただの仕事仲間だと言っていたけど?」

「ヒューはシャイだからね。昨日も、僕と、ね」

ロイの言葉にダニエルは真っ赤になった。

「ブラコンもいい加減にしないと、ヒューに嫌われるよ」

フフフと笑ってロイが言うと、我慢できずにダニエルはロイの頬を平手で叩いた。

「出て行ってくれ!」

ダニエルを怒らせてロイもスッキリした。
いつも自分を邪魔者のように見るダニエルが、ロイはずっと気に入らなかった。
しかも、日本人にヒューを取られてなるものかと必死でもあった。
ロイは、ヒューが自分の口の中で果てたことで優越感に浸っていた。
言葉では拒否しながらも、ロイのする事を結局受け入れたヒューを、自分の物にできると確信したのだった。
しおりを挟む

処理中です...