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本編

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俺が帰り着くと、普段は優しくて冷静な親父は俺を怒鳴った。

「いったいどこまで逃げたんだ!警察にも連絡して探し回ったんだぞ!銀狼は無事なのか?」

俺は着ていた上着に銀狼を包んでいたが、泣きながら親父に渡した。

「!……まさかッ!」

「その赤ちゃん、銀狼、なんだよ。起きてると、赤ちゃん、で、眠ると、狼に、戻る、んだ」

泣きながら俺は一生懸命説明する。

「警察の人には帰ってもらったわ。全く、本当にこの子は」

俺が無事戻ってきたので、お袋は警察に玄関で事情を説明していた。

「どうしたの?この赤ちゃん!」

「銀狼だよ。まさか、人間の姿になるとは。でも眠ると狼に戻るようだ」

親父が抱っこしてお袋に説明する。

「悪いが銀狼を頼む。昔の文献を調べてみる。分かるかわからないが」

親父はお袋に銀狼を預けて、家を出て裏にある蔵へ向かった。俺も後を付いていく。
古い文献を見る機会がほとんどなかったので、埃まみれでどこにあるのか分かりづらかった。
それでも親父は一つずつ文献を開いていく。

「載ってないか。掟を破ったことがなかったんだろうな」

親父はそれでも一つずつ目を凝らして見ていく。

「……あった。明治に書いたものだ。なんとなくだが読める時代で良かった」

ホッとして親父はその文献を持つと、俺と共に家に戻った。

「人間の世界に一週間以上留まると、あやかしは半妖になってしまい、二度とあやかしの世界には戻れなくなる。と書いてあるな」

「半妖?」

「人間とあやかしの性質を持つあやかしと言うことだ。起きている時は人間。でも、眠ると元の姿になる」

お袋の腕の中でスウスウと眠る、狼の姿の銀狼をみんなが見つめる。

「文献に載ってるって事は、昔も半妖になったあやかしがいるんだよね?そのあやかしはどうなったの?」

俺の問いに親父は首を振る。

「この文献が一番新しいものだが、その半妖がどうなったかまで書いていない。もう生きていないのか、まだどこかで生きているのか。半妖になってしまうと、どうなるかまでは謎だな」

親父の言葉に俺は泣き出した。
もうずっと泣き通しだと思うほど泣いた。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

俺は謝ることしかできない。

「過ぎてしまったことは仕方ない。悠仁も銀狼をちゃんとこれからも可愛がるんだぞ。人間の世界で生きていくしかないんだ。これから先のことをしっかり考えないとね」

親父の言葉はとても重みがあった。
銀狼を人間の世界で育てるのは、とても簡単な話ではなかったからだ。

そうして銀狼は、25年前に半妖として生まれ変わってしまった。
人間の年齢で現在25歳と言うことだ。
過去にも銀狼のように半妖になって、この人間の世界に留まったあやかしがいるかもしれないが、そのあやかしはどうなったんだろう。
それだけは、まだ謎のままだ。
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