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●愛したのが始まり●

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糸坂は悪あがきの様に健を睨みつける。

「これがお前の復讐か」

「そうだね。あんたから全てを奪う事。もう家にも帰れないね。あんたと別れた後、俺は直ぐに警察に連絡する。警察は直ぐにあんたの自宅へ駆けつけるだろうね」

もう2度と、糸坂を祥子の元へは帰さないし、会わせることもさせないつもりだった。

「……逃げても無駄だと言うことか」

流石に観念したのか、糸坂は悔しそうに項垂れる。
健から逃げる事は出来ない。
武器が何もない以上、健を力で押さえつけないことぐらい糸坂でも分かっている。
弥之を殺した21年前とは違って、健に力でも勝てるわけがなかった。

「スマホを出せ」

健が右手を糸坂に差し出す。
健が言っている事が糸坂には理解できない。

「なぜお前に渡さなくちゃいけないんだ?」

「2度と家族に連絡できない様にだよ。最後くらい父親らしい事をして、21年前の罪を娘に償え」

「娘に何を償えと言うんだ?何も俺の役に立たなかった役立たずの娘だ!誘拐なんて生ぬるい事をするより、いっそ殺してしまえば良かったよ!」

糸坂の言葉に、流石の健も冷静ではいられなくなった。
糸坂の胸ぐらを掴み、左頬を殴った。

「……やっぱりあんたは外道だ」

健は糸坂のスマホを無理矢理奪うと、庭園の岩に思いっきり投げつけた。

「お前!何しやがる!」

糸坂は慌てて庭園に降りてスマホを手に取るが、もう画面も割れて電源が落ちていた。
糸坂の真っ黒なスマホの画面を見て健はほくそ笑む。

「これで誰にも助けを求められないな。これからは追い詰められる恐怖に怯えるがいい」

もうこれ以上一緒にいては何をするか自分でも自信がなくなり、健は糸坂を置いて料亭を出ると顧問弁護士に電話を掛けた。

「今、糸坂と別れました。今夜の会話もボイスレコーダーに録ってます。後のことは、よろしくお願いします」

そして健の依頼により、楜沢家の顧問弁護士は後日、21年前の弥之の再捜査の為に告訴した。
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