インシデント～楜沢健の非日常〜

●アンビバレント●

3-6

日曜日に、蓮司は都子が用意してくれた手土産を持って、賢一郎の祖父の家の前まで到着した。
流石にここは嫌がらせを受けていなかったんだと蓮司はホッとすると、インターホンを鳴らす。
しばらくして、賢一郎の祖母の、飯豊幸江の返答があった。

「突然すみません。俺、呉田蓮司と言います。賢一郎君の幼馴染です」

幸江は蓮司をカメラの画面で確認して、ソファに座ってテレビを見ていた一久を見た。

「賢一郎の幼馴染の男の子なんだけど。呉田さんですって」

今更何故賢一郎の幼馴染が訪ねてきたのかと、一久は怪訝な表情になった。

「どう言った御用かな？」

幸江に変わって一久が応対する。一久の声に蓮司は一気に緊張した。

「俺、賢一郎とは高校も一緒で、クラスも一緒だったんです。最近家が取り壊されて、凄く心配になって」

蓮司が本気で賢一郎を心配している様子が一久にも伝わり、一久は玄関のドアを開けた。

「……まぁ、とにかくお入りなさい」

一久は、犯行前の賢一郎の様子も聞きたかったので蓮司を家に上げた。

「お邪魔します。あの、これ、良かったらどうぞ」

蓮司が一久に手土産を渡すと、緊張している蓮司が可愛く見えて一久は微笑んだ。賢一郎と重なって見えた。

「ありがとう」

一久に受け入れられてもらい、蓮司はホッとしてリビングへと案内された。