すいぎょのまぢわり

五嶋樒榴

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第十二話

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絢斗が、茉理の部屋のベッドに寝っ転がってスマホを弄っている。
茉理はデスクチェアに腰掛けて絢斗を見つめる。

「なに?」

スマホから目を離さずに絢斗が茉理に尋ねる。

「んー。なんかさ、将来?の話したけど、なんかピンと来ないんだよねぇ。まだ」

「お前はそんなことより、あと数日で帰ってくるテスト結果を考えろ」

ピシャリと現実的な事を言われて茉理はムッとする。

「それももちろん分かってるよ!でもさぁ、一哉の将来の夢、初めて聞いて驚いた」

「外交官?確かにな。俺はてっきり法曹界に行くと思ってたからね」

どんどんみんな、大人になってるんだと茉理も自覚させられた。
自分はまだ将来をなにも考えていなかった。
絢斗の父は大学病院で外科の教授をしているので、絢斗もいずれ医者になる事は想像できた。
だが一哉は意外すぎて驚いた。

「みんなと離れるの嫌だな。一哉と臨と、ずっと仲良くしたい」

寂しそうに茉理は言う。

「……………茉理。こっち来て」

絢斗が茉理を見て言う。
茉理は寂しそうな顔から、恥ずかしそうな表情に変わった。
立ち上がると、絢斗のそばに近づきベッドに腰掛ける。

「大丈夫だよ。ずっとみんなそばにいるさ。特に俺は、何があっても茉理から離れないし離す気もないよ」

笑顔で絢斗が言うと茉理はホッとして微笑む。

「うん。家もお隣同士だしね」

「え?そこ?ったく」

絢斗は茉理の言葉に笑って、茉理の頭を引き寄せた。
茉理も目を閉じると、絢斗のするがままに従う。
唇が触れ合い離れると、お互い瞳を閉じたままおでこを合わせて笑いあう。

「……………もう少し、進展したいな」

絢斗はそう言って茉理をベッドに倒した。

「進展って。そのッ!」

「ん?まだ最後までしないよ。でも、そろそろキス以上、しても良くね?」

茉理は真っ赤になって絢斗を見つめる。
なんて答えて良いか分からない。

「……………テスト………無事クリアしたら……………考える」

恥ずかしすぎて、それを言うのがやっとの茉理。絢斗はプッと笑った。

「考えるだけかよ。ったく。焦らすとか良い度胸じゃねーか」

絢斗はそう言って茉理に覆い被さる。
茉理は絢斗の背中に両腕を回す。

「だって、恥ずかしいだろッ!」

「ばーか。すぐ気持ち良くなって、恥ずかしいのなんか吹っ飛ぶわ」

絢斗のセリフに茉理はクスッと笑う。

「……………だね。勉強と一緒で、そうやって絢斗に洗脳されるんだ」

「違うよ。勉強だって茉理が望んだ事だろ?お前が望まない事、無理強いしないよ」

絢斗は茉理から体を離して、茉理を見下ろす。

「……………うん。試験、無事クリアする事祈ってて」

茉理はそう言って、恥ずかしそうに目をそらした。

「ったく。それも人任せかッ」

余裕の顔で絢斗はそう言ったものの、心の中では茉理が無事赤点なしで夏休みになるように祈りまくっていた。
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