すいぎょのまぢわり

五嶋樒榴

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第十話

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不機嫌な絢斗を見ながら茉理はチーズケーキをモグモグと食べる。

「………………どうしてカンちゃんに冷たいの?」

「この部屋でカンちゃんって言うな。うっさい」

ムスッとして絢斗は言う。
何故こんなにも、絢斗が莞爾に怒っているのか茉理には理解できない。

「せっかく危険な場所から帰ってきたんだよ」

「………………別にどうでもいい。俺は、茉理があいつにした事が許せねーんだよ」

茉理は何のことか分からずキョトンとする。

「カンちゃんに俺、何かしたっけ?」

全く何のことだか分からない茉理。
絢斗はイライラしながら茉理を見つめる。

「お前!マジ忘れてんのか!信じられねぇ!」

イライラも頂点の絢斗はベッドにうつ伏せになり頭を抱える。

「あいつのほっぺにちゅーしただろうがッ!“カンちゃん!大好きー!”って!」

絢斗の言葉に茉理は目が点になる。

「ええええええええええ?なにそれッ!いつの話だよ!俺、全然記憶ねーしッ!って何でちゅーしたんだ?」

今度は茉理が焦る。

「俺達が小学校1年の時。まだあいつが研修医でこの家に下宿してた時だよ!入学祝いにってあの当時流行ってたゲームをあいつが俺たちにプレゼントして、お前が抱きついてちゅーしたんだ!」

絢斗がふてくされて言う。

「全然覚えてませーん。って言うかぁ、それって子供の時のどうでもいいエピソードじゃね?」

「どうでも良くない!俺はそれからずっと奴に嫉妬してたんだ!」

あまりにも下らない理由すぎて、正直茉理は引いた。
そしてそれが茉理を好きだと、絢斗がはっきり自覚したきっかけにもなったのだった。

「だからあいつの顔を見るといつもイライラして!」

悔しそうに絢斗が言う。
茉理はフッと笑うと、うつ伏せになっている絢斗に覆いかぶさった。
そんな昔から、絢斗は自分を好きでいたんだと、茉理は嬉しくなった。

「子供の時のそんなの気にすんなよ!今は、俺はお前の恋人なんだろッ!」

絢斗の耳元で茉理が言うと、素直な茉理が愛おしくて絢斗は満足気に笑う。

「うん。そうだな」

絢斗はそう言って、体をずらして茉理と見つめ合う。

「俺のこと好き?」

絢斗が甘えてくる。
茉理は恥ずかしかったが、また絢斗がいじけない様に笑顔で頷く。

「好きだよ」

茉理はそう言って絢斗のほっぺにちゅーする。

「ちゃんとキスしろよ」

絢斗がおねだりをする。
茉理は真っ赤になって絢斗に顔を近付ける。
茉理のキスは軽いものだったが、絢斗は十二分に満足した。
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