すいぎょのまぢわり

五嶋樒榴

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第二話

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絢斗からの衝撃の告白に、茉理は目が覚めても夢だったとしか思えなかった。
宿題が終わり、絢斗が帰る時に玄関まで送った。
絢斗はもうちゃんと茉理と距離を保って、普通に帰って行った。


なんだったんだろ。
絢斗が俺を好きって。
触りたいとか、ちゅーしたいとか。
ちゅー。
ちゅー、でこだったよな。
でこで良いって事なんだよな。
って、なに、考えてる?
でこでホッとしてる?
でこにちゅーされたのだって一大事だろ!


茉理は目がはっきり覚めてくると、そんな事を考えながら枕を抱きしめて足をバタつかせる。
ただここでジタバタしていても、なにも昨日の夜の出来事は解決しない。

『茉理、起きてるー?朝ごはん食べる時間なくなるよー』

スマホにかかって来た電話で母親に起こされ、茉理はゆっくりとベッドから起き上がる。
今朝、どんな顔で絢斗と会えば良いのか分からなかった。
門の前で絢斗が来るのを茉理は待つ。
それが毎日の日課だからだ。


ふつーに。
別に変に意識する事じゃない。
でも……………俺を好きって事は、手、繋ぎたいとか思うのかな。


想像して茉理は真っ赤になる。

「はよぉ」

絢斗の声に茉理はドキッとする。

「おはよ」

恥ずかしくて茉理は絢斗がちゃんと見れない。
茉理はドキドキしながら絢斗と並んで歩く。

「……………昨日のさ」

気まずくなって茉理から話を切り出す。

「その、でこちゅーとか、絢斗の、気持ち?とか?」

誤魔化すように疑問形で茉理は話す。

「昨日も言ったけど、茉理に何かを望んでねーから。心配すんなよ」

低いトーンでポツポツと絢斗は言う。

「……………心配って言うかッ!俺の気持ちは聞かないのかよッ!」

ムキになって茉理は言う。

「だって混乱してる奴に、気持ち聞かせろなんて言えないだろ。そこまで俺も鬼じゃねーし」

混乱してるの分かってるんだと茉理はチラッと絢斗を見る。

「鬼だよ。俺の気持ち無視して、いきなりあんなッ!」

ムッとしながら茉理は言う。

「言ったろ?我慢できなかったって」

無表情で絢斗は言う。その言葉に茉理はムッとしながらドキドキしっぱなしだった。

「……………いきなりスイッチ勝手に入れるな!その前に言葉に」

絢斗に手を握られて、茉理はビクッとして言葉が止まった。

「離せよッ!」

茉理が手を振り払う。

ただでさえ絢斗は目立つので、自分と手を繋いだところを誰かに見られるのが恥ずかしかった。

「言葉にして?それでお前に拒否されるのヤダし。だったら一か八かお前の反応見たかったし」

そう言われてはぐうの音も出ない。

「爪痕残せただろ」

ニヤリと笑って絢斗は言う。
確かに爪痕をバッチリ残された。
茉理の心の中がザワザワするほど。
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