上 下
36 / 50
No.2 お茶漬けの味

9

しおりを挟む
裕人の母親の話。
確かに裕人にしたら、犯人も許せないだろうが、母親のことも許せないんだろうと思った。

それが原因で女性恐怖症?って言うか女が怖くて。
傷を癒すのに、きっと時間がかかるんだろうな。
それでもさ、いつかは好きになった女が出来れば良いけどさ。

俺はそんなことを思いながら、後どれくらい、裕人をそばに置いておけるのか考えた。
18になったら、五島組の正式な構成員になるのだろうか。
だけど、それを俺が考えるのは、おかしなことなんだけどさ。
でも裕人には、五島組長の下で幸せになってもらいたいって思うんだよね。 

次の日からも、裕人は素直に通ってきていた。
昨日あんな話をさせちまって、気まずいと思っていたのは俺だけだったようだ。

この店に通い始めて、だいぶ逞しくなってきたな。
この店だけでの裕人しか知らないが、世間をだいぶ知ってきたような気がする。

「お前、成長期?ここに初めて来た時よりだいぶ大きくなってね?」

隣に立つ裕人に言ってみた。

「そっすね。ズボンが短くなってる気がする」

俺は裕人の足元を見た。
うん。見事にツンツルテン。

「新しいズボン買ってやるよ」

「良いっすよ!もったいない。これぐらいなら全然いけるっす」

裕人は笑いながら言う。

「でも目線が変わったの気のせいじゃなかったんすね。最近、至さんが小さく見えてたんで、変だとは思ったけど」

「うっせーよ!黙れ」

俺はむかっとして恥ずかしくなった。
伊織は最初からデカかったから気にならなかったが、裕人は気がついたら、俺よりかなりデカくなったから気になる。

「って言うか、至さん、童顔だし、そのうち俺の方が年上に見えたり」

ふふふと裕人が笑う。

「ばーか。お前が俺より年上に見えるようになる頃には、今みたいに会えなくなってんだろ」

俺はそう言って笑う。

そう。
いつかはこの店に来なくなる。
寂しいけど仕方ねぇ。
裕人は五島組の人間だ。

「…………寂しいこと言わないでください。まだここに来れる間は、会えなくなるなんて言わないでください」

静かな声だった。
低い静かな声に、俺はフッと笑った。

「ああ、そうだな。当分、先だな」

そう言うのが、変だが精一杯だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

冬生まれ
BL
モテる友人、斉藤 結那【さいとう ゆな】とは全く真逆の奏人【かなと】は、いつも彼と比べられ馬鹿にされていた。そんな結那に逆恨みした奏人は、彼を陥れようとある作戦を思いつき、実践するのだが……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...