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No.2 お茶漬けの味

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五島組長が帰り、俺達は後片付けを済ませた。

「あ、今夜は五島組長が来てたから、お前賄い食い損ねただろ。仮眠する時間はねーけど、飯はちゃんと食っとけ」

俺は残り物を手早く器に盛り、裕人に渡した。

「すみません。奥でいただいてきます」

まだ客は数組いたが、もう直ぐ店じまいだったので後は暖簾をしまうだけだった。

「大将。見習いの子可愛いじゃない。いつから入ったの?」

久しぶりに来た常連の女性客に尋ねられた。

「ええ、最近なんですよ。まだ数ヶ月のひよっこで。ちょっと預かってるんでそのうちこの店には来なくなるんですけどね」 

「あら、そうなの?最近仕事忙しくて来れなかったけど、またちょくちょく大将で目の保養させてもらうわ」

女性客はそう言って会計を済ませると帰って行った。
ここに来る大半の女性客は経営者が多いので、なかなかの金額を落としていってくれるから助かる。

食事を済ませた裕人が、しょんぼりした顔で出てきた。

「至さん、本当にモテますよね」

裕人が言うことに俺は驚く。

「は?別にモテてねーし。ただのリップサービスだし」

俺はそう言って鼻で笑ってみる。

「気がついてないだけです。俺、ここに来てお客さんを観察して良く分かりました。女性客が多いのも、至さん目当てなんだろうなーって」

裕人の口ぶりに、俺は羨ましいのかな?と思った。
本当は、裕人だって女性と仲良くしたいと言う願望が有るのではと思った。

「裕人はさ、出会い少ないかもしれねーけど、良いなって思うオンナが現れたらドンドン積極的に行けよ」

俺は軽い感じで言ってみた。

「あー、はい」

気乗りしない返事が返ってきた。

「……勘違いだったらごめんな。お前、もしかして女の人苦手か?」

尋ねてみると、裕人はピクッと反応した。

「あ、良いよ。もしそうなら、変なこと言ったかなっと思ってさ。お前はお前らしくしてれば良いことなのに、積極的にとかよけいなお世話かと思ってな」

言い訳のように俺は言葉が出てきた。
裕人は首を振る。

「いえ。苦手っていうか、怖いんです」

俯きながら裕人は言う。
ああ、お袋の言う通り、女性恐怖症かと俺は思った。

「俺、母親が怖かった。父親が普段いない分厳しかった。妹がいたせいかもしれないけど、お兄ちゃんなんだからって、良く怒られてました」

裕人が言うことは想像ができた。
そんな話は、ダチからも聞いたことが良くある。
俺は一人っ子だったから分からないけどさ。
そもそもお袋は俺がガキの頃から大雑把だったし、良くも悪くも放任主義だったし。

「……いつからか、すげー優しくなりました。今思えば、男ができたせいだったんだと思う。ヒステリックじゃなくなった。平和だった。父親には可哀想だったけど、ずっとこの平和が続けばって思ってしまいました」

まだ11だったんだもんな。
そう思っても仕方ないさ。
そうして自分の身を守ってきたんだろうな。

「そう思った天罰かなぁ。まさかその相手の男に放火されるとは思わなかった。それから俺は母親を憎んだ。母親が浮気しなければ、俺は普通に高校行って、妹だって、中学生のはずだったのに」

空気が重苦しくなってきた。
こんな話をさせてしまって凄く悪い気がしてきた。
昔を思い出させてしまって、俺は申し訳なくなってきてしまった。

「ごめんな。話したくないことまで話させたか?」

俺が素直に謝ると、裕人は笑顔で首を振った。

「いえ。たまに辛くなるから、聞いてもらえて嬉しかったっす。俺こそ、暗い話してすんません」

反省する姿が痛々しくて、俺は裕人の二の腕を軽く叩いた。
肩を叩きたかったが最近の若い奴は成長が良くて、俺より背が高いから肩を叩きづらい。

「気にすんな。俺で話しやすければなんでも話せ。俺はお前のこと、息子って言うには違うが、可愛い奴だと思ってるんだぜ」 

「ありがとうございます!」

本当に、こいつは笑顔が可愛いんだよな。
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