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No.1 恋するシャボン玉

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次の日、百均でシャボン玉を買った。
アパートの窓からシャボン玉を吹く。
ガキの頃の思い出が蘇る。
小さな晴が俺の吹くシャボン玉を追いかけて、キャッキャと笑って喜んでいた。

梓さんはベッドに寄りかかって、なんか小説を読んでいる。
昨夜、俺を抱きしめたまま、梓さんは一緒に眠ってくれた。

「楽しいか?それ」

俺は梓さんを見た。梓さんはずっと小説に顔を向けたまま。

「楽しいですよ。綺麗だなって、思って見てる。フワフワ飛んで、しばらくすると弾けて消えるけど。俺みたいだなって」

「綺麗なところが?」

梓さんの言葉に俺はプッと吹いた。

「違いますよ。すぐ消えてしまうところですよ。それに俺、綺麗じゃないっすよ」

俺が言うと、梓さんは小説を閉じて俺を見た。

「綺麗だよ。顔も心も。綺麗だから、傷ついた。お前を一晩中抱きしめて思った。少しでも傷を癒してやりてーって。ちっせー体で、ガキみたいで。でもきっと心もガキみたいに純粋なんだろうな」

梓さんは、優しい顔で笑った。
爽やかな笑顔。

「こっち来いよ」

梓さんが俺に言う。俺は窓を閉めてシャボン玉の液をその場に置いて、梓さんの隣に並んで座るとベッドに寄りかかった。

梓さんは無言で俺の頭を大きな掌で撫でる。
まるで仔犬にでもなった気分だ。

梓さんが俺の顎を上げた。
ドキンとした。
見つめあったまま、顔が近づいていく。
ドキドキした。
梓さんの唇が、俺の唇に触れた。
なんだろう。
嫌じゃなかった。
唇がとても気持ちいいと思った。

気がついたら、俺から梓さんの口の中に舌を入れた。
梓さんも舌を絡めてきた。
俺は梓さんに抱きついた。
梓さんは俺を抱きしめ頭を撫でてくれる。

「全く、ガキだな」

そう言って優しく抱きしめてくれる。
梓さんの温もりが、俺を穏やかにしてくれる。

「気持ちいいか?」

「うん。気持ちいいです」

「俺も気持ちいい。安心する」

嬉しかった。
梓さんに抱きしめてもらえるのが。
安心すると言ってもらえたのが。

「もっとキス、してください」

「ばぁか。したかったら、黙ってしてこいよ」

「嫌です。してください」

俺は何をこんなに甘えているんだろう。

梓さんは、俺を畳の上に倒して覆いかぶさってきた。
畳の上は痛かったけど、梓さんのキスが優しくて気持ちよくて、俺は梓さんの首に腕を回して離したくなかった。

顔が離れた。
梓さんの鋭い瞳が俺を見つめる。

「どうする?これでやめるか?それともベッドに乗るか?」

俺を見下ろしながら梓さんは言う。

ベッドに乗ったら?
梓さんとセックスするのか?

そうだよね。
インポでも、抱かれるなら関係ないもんね。

でも梓さんは、俺とセックスできるの?
俺、男だよ。
分かってるよね?
いくらキスが気持ちよくても、俺は男だよ?
流されて、今セックスして、梓さんは後悔しない?

「梓さんはどっちがいいですか?聞くってことは迷ってるって言うことでしょう?」

「ああ、迷ってる。お前を傷つけたくないから」

意外な答えに驚く。

「どう言う意味ですか?」

「俺とセックスして後悔しないか?」

梓さんの熱い眼差しと、セックスという言葉にドキドキした。

「梓さんは後悔しませんか?」

質問を質問で返した。

「しないよ。するぐらいなら、初めから優しくしねぇよ」

「俺が好きですか?」

俺的に重要なポイントだった。

「分からねぇ。男を好きになったことも、抱いたこともないからな。でも、お前は可愛い。放っておけない。初めて見た時からそう思った」

梓さんは素直だ。嘘がない。

「俺は梓さんが好きです。俺に同情もしなければ、笑い者にもしない。優しくて、あったかい。恋かと聞かれたら分かりません。正直、昔をまだ引きずってるから」

俺の答えは不満だったのか、梓さんは俺から離れて1人でベッドに横になった。

「怒りました?」

気まずくて俺は聞いた。
梓さんは何も答えない。
この沈黙が苦しい。
仕方ないのは分かってるけど、苦しくてたまらない。

「なあ」

梓さんの声が聞こえてホッとした。

「また、抱きしめてもいいか?それ以上は求めねぇから」

梓さんも、人肌が恋しいんだと思った。

「はい。俺も、抱きしめて欲しい」

俺がそう言うと、梓さんは俺を見て笑った。

「甘えん坊だな、お前は」

梓さんの言葉に俺は微笑んだ。
でも梓さんも甘えん坊だ。
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