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No.1 恋するシャボン玉

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仕事が終わって、俺は帰りに弁当屋で弁当を買って帰った。
梓さんは今夜もソープに出かけた。
弁当を食べ終わり、シャワーを浴びて、俺は1人ボーッとテレビを見ていたらスマホが鳴った。
誰かと思った。
実家の番号だった。
この間電話をかけたから、ナンバーディスプレイに残してしまったんだと思った。

「もしもし」

母親だと思った。

『……秋?』

少しだけ、母親じゃない予感もあった。

『秋、だよね?』

晴。
こんな声だったっけ?
忘れてた。

『秋、答えて』

俺はその声をただ聞いていた。

『急に電話してごめん。今日実家に戻ったら、秋から連絡あったって聞いて、どうしても秋と話がしたくなった。この番号なら出てもらえると思って』

声が昔より低くなったか?
まるで別人みたいだ。

『秋、ごめんね。迷惑だったね。俺ももうこの家にいないし、秋もたまには父さんと母さんに会いに来てよ』

それ、お前が言う?
俺がその家を出た理由はお前だよ?
お前が俺を壊した。
俺の身体に深く刻まれた、お前から付けられた傷をまたえぐるのか?

『秋、頼むよ。何か言ってよ』

「……彼女、家に連れてきたんだってな。結婚するの?」

なんて答える?
結婚するって言うのか?

『母さんから聞いたんだ。結婚は、考えてるけど、まだ』

「俺、インポになったんだ」

晴の言葉を遮って俺は言ってやった。

「お前におもちゃにされて捨てられてインポになったさ。女にしゃぶられても勃たねぇし、自分で扱いても勃たねぇ」

『ごめん!秋、ごめん!』

「何が?お前、謝ってばかりで、何もしてくれねぇよな。謝るなら、ちゃんと責任取れよ。俺を勃たせろよ。昔みたいに、俺を抱けよ」

『ごめん!秋がそんなことになってるって知らなかった!』

「ごめん、ごめんて、お前はそれしか言えねぇのかよ。イライラすんだよ。俺よりデカい身体で、俺を、俺を」

涙が溢れてきた。
心の中に溜まったものを、吐き出すように涙が溢れる。

「もう、俺のことは死んだと思え。もう、二度と電話してくるな」

『秋。嫌だよ。そんな風に思えないよ!俺が悪いのは分かってる。許してほしいとも言わない!だけど、そんなこと言うなよ』

イライラする。

「じゃあ、俺のインポ治してよ」

『秋が望むなら、俺が出来ることはなんでもするよ』

「お得だよね。彼女を抱いて、俺も抱いて?お前はヤり得だよな」

何を言ってる?
俺はまだ未練タラタラで、晴に抱かれたくって堪らないのか?

バカか?
俺はバカだ。
大バカだ。

どんなに傷ついても、晴を愛してるんだ。
まだ、晴を愛してる。

スッと、スマホが俺の耳から取り払われた。
俺はビクッとして振り向いた。
梓さんが俺のスマホを持っている。
親指で、電話を切っていた。

「ただいま」

梓さんは静かに言った。
俺は涙を拭った。

「声掛けづらかった。でも聞いていて、気がついたらお前から取り上げちまった。話し中に悪かったな」

梓さんはスマホを俺に返した。俺は黙って受け取った。

梓さんはどこから聞いていたんだろう。
興奮して気が昂っているせいか、なぜか話を聞かれた羞恥心はなかった。

しばらく俺と梓さんは、ベッドに寄りかかって座ったまま何も話をしなかった。
その沈黙を破ったのは俺だった。

「俺をレイプしたのは、実の弟でした。愛してると言う言葉に、俺は弟を受け入れて身体の関係が始まりました。関係が始まって4年近く経ったある日、弟が女とセックスしてる場面を見てしまって、気がついたら俺はインポになっていました」

だいぶ簡略な説明。薄っぺらい内容。
でも、俺と晴の関係は、そんな薄っぺらいものだった。

ちょっとした遊び。
そうだ。
晴にしてみたら、遊びだったんだ。

あいつは分かってた。
所詮兄弟なんだから、何があってもその関係は崩れないと。
それを、愛してると言われて浮かれて真に受けて。

「秋。もう寝ろ。もう、全て忘れろ」

梓さんはそう言って立ち上がって、キッチンに行くと缶ビールを飲み始めた。

気持ち悪いよね。
同居人が実の弟と関係を持っていて、まだ未練タラタラで。
しかも、弟にフラれてインポになったなんてさ。

「おやすみなさい」

俺は呟くように言うと、ベッドに入り掛け布団を頭から被った。

胸が苦しい。
もう、苦しくて死んでしまいたい。
どうして俺ばかりこんなに苦しむの?
俺が何をした?
ただ、晴を本気で愛しただけだ。
晴に裏切られても、俺の中は晴でいっぱいで。

バッと布団をめくられた。
俺はハッとして顔を上げた。
梓さんが、俺を抱きしめた。
ギュッと力強く抱きしめた。

「余計な事考えるな。寝ろ」

梓さんはそう言うとベッドの中に入ってきて、俺を抱きしめたまま横になった。

「ちっせーな。全く、ガキみてぇだな」

梓さんの胸に顔を埋めた。
ソープ帰りの甘い匂いがする。

「何も考えるな。全て忘れろ」

気持ちよかった。
梓さんに抱きしめられて気持ちいい。

安心した。
大きな体に包まれて、俺は凄く安心した。
俺は規則正しく鼓動する、梓さんの心臓の音を聞きながら眠った。
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