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手長海老と海の幸のパエリア・アイオリソース添え
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真面目な広重に村瀬は笑う。
「そう思うならとことん悩め。どうせ吉国も待つとか言ってんだろ?似たもの同士の馬鹿野郎だ」
村瀬は笑って広重を見つめた。
「でもな、そうやって思ってるって事は、やっぱりお前は吉国が好きなんだよ。好きだからお前は怖いんだろ?吉国がネコだって分かってんだろ?」
村瀬の言葉に広重は頷く。
「だから余計ちゃんと大事にしたいんです。正直、そっちの自信もないし」
広重は亮を抱く立場だと言うことも自覚している。
「ばーか。それは経験だ。余計なことぐちゃぐちゃ考えやがって。あんな美味しそうな羊が目の前にいてよく我慢できるな。俺ならとっくに食ってるわ」
「一緒にしないでくださいよ」
赤面して広重は言う。
「何にそんなに自信がないのか、抵抗してるのか分かんないけどさ、素直になれよ。じゃないと、他に取られるぞ」
村瀬の言葉に広重は笑う。
「そうなる前には、ちゃんとしますよ」
広重がそう言うと、村瀬はもう何も言わなかった。
キッチンの片付けも終わり、広重と亮は帰ることにした。
「村瀬さんと何を話してた?」
帰りの電車の中で亮が尋ねる。
「元奥さんの話とかね。ちゃんと犬神さんと付き合っていること話して奥さんも承諾してるんだって」
「そっか。良かったね」
亮も本心でそう思った。
幸せなカップルを見て羨ましかったが、自分の隣に広重がいてくれるだけで、亮も幸せな気分だった。
「村瀬さんに言われた。余計なこと、ぐちゃぐちゃ考えすぎだって。そのうち誰かに取られるぞって。誰かに取られるなんて考えてもみなかった」
真剣な口調で広重は言う。
「俺、馬鹿だよね。自信ないとか言いながら、亮は離れていかないって自信があって。矛盾してるよな。そう思いながら、好きかどうか分からないとか」
ぺらぺらと広重は止まらない。
「考えてなかったこと言われて焦るって、俺ってマジめでたい奴だよな」
自虐的に言って笑う。
「広重?酔ってる?もう良いよ、その話。ここ、電車の中だよ」
亮が静止する。
広重が口を噤んだ。
しばしふたりの間に沈黙が続いた。
広重はチラチラと、亮の様子を窺いながらまた口を開いた。
「…………ごめん。どうして良いか分からなくて。どうしたいのかも分からなくて」
亮は次の駅で広重と一緒に電車から降りた。
「亮?なんで降りた?」
「お前、どうしたいとか分からないって言うからだよ。あのまま電車の中で変なこと口走られても困るからさ」
亮の言葉に広重はカチンときた。
自分は真剣に亮の事を考えているのに、この先のことが不安なのに。
なんで変なこと口走られるか迷惑だと、言われなくちゃいけないのか腹が立った。
「俺はお前と違うんだよ!お前が初めての相手だから、大事だから躊躇してんのに!傷つくのはお前の方じゃん!それとも、もう何人とも付き合ってるから、俺の心配なんて鬱陶しいだけかよ!」
広重の言葉に、亮は広重の頬を引っ叩いた。
広重はハッとして亮を見る。
ホームにいた数少ない乗客も、何があったのかと広重と亮を見る。
「最低だな。俺を傷つけるのが怖いとか言いながら、本当は自分が傷つくのが怖いだけだろ。俺のせいにするな」
亮はそう言うと、広重に背を向けた。
広重は叩かれた頬に手を当てて何も言えない。
しばらくするとまた電車が入ってきた。
亮は無言のまま電車に乗る。
広重は動けなかった。
電車は閉まるとホームから走り去っていく。
広重はその電車をただ見送った。
「そう思うならとことん悩め。どうせ吉国も待つとか言ってんだろ?似たもの同士の馬鹿野郎だ」
村瀬は笑って広重を見つめた。
「でもな、そうやって思ってるって事は、やっぱりお前は吉国が好きなんだよ。好きだからお前は怖いんだろ?吉国がネコだって分かってんだろ?」
村瀬の言葉に広重は頷く。
「だから余計ちゃんと大事にしたいんです。正直、そっちの自信もないし」
広重は亮を抱く立場だと言うことも自覚している。
「ばーか。それは経験だ。余計なことぐちゃぐちゃ考えやがって。あんな美味しそうな羊が目の前にいてよく我慢できるな。俺ならとっくに食ってるわ」
「一緒にしないでくださいよ」
赤面して広重は言う。
「何にそんなに自信がないのか、抵抗してるのか分かんないけどさ、素直になれよ。じゃないと、他に取られるぞ」
村瀬の言葉に広重は笑う。
「そうなる前には、ちゃんとしますよ」
広重がそう言うと、村瀬はもう何も言わなかった。
キッチンの片付けも終わり、広重と亮は帰ることにした。
「村瀬さんと何を話してた?」
帰りの電車の中で亮が尋ねる。
「元奥さんの話とかね。ちゃんと犬神さんと付き合っていること話して奥さんも承諾してるんだって」
「そっか。良かったね」
亮も本心でそう思った。
幸せなカップルを見て羨ましかったが、自分の隣に広重がいてくれるだけで、亮も幸せな気分だった。
「村瀬さんに言われた。余計なこと、ぐちゃぐちゃ考えすぎだって。そのうち誰かに取られるぞって。誰かに取られるなんて考えてもみなかった」
真剣な口調で広重は言う。
「俺、馬鹿だよね。自信ないとか言いながら、亮は離れていかないって自信があって。矛盾してるよな。そう思いながら、好きかどうか分からないとか」
ぺらぺらと広重は止まらない。
「考えてなかったこと言われて焦るって、俺ってマジめでたい奴だよな」
自虐的に言って笑う。
「広重?酔ってる?もう良いよ、その話。ここ、電車の中だよ」
亮が静止する。
広重が口を噤んだ。
しばしふたりの間に沈黙が続いた。
広重はチラチラと、亮の様子を窺いながらまた口を開いた。
「…………ごめん。どうして良いか分からなくて。どうしたいのかも分からなくて」
亮は次の駅で広重と一緒に電車から降りた。
「亮?なんで降りた?」
「お前、どうしたいとか分からないって言うからだよ。あのまま電車の中で変なこと口走られても困るからさ」
亮の言葉に広重はカチンときた。
自分は真剣に亮の事を考えているのに、この先のことが不安なのに。
なんで変なこと口走られるか迷惑だと、言われなくちゃいけないのか腹が立った。
「俺はお前と違うんだよ!お前が初めての相手だから、大事だから躊躇してんのに!傷つくのはお前の方じゃん!それとも、もう何人とも付き合ってるから、俺の心配なんて鬱陶しいだけかよ!」
広重の言葉に、亮は広重の頬を引っ叩いた。
広重はハッとして亮を見る。
ホームにいた数少ない乗客も、何があったのかと広重と亮を見る。
「最低だな。俺を傷つけるのが怖いとか言いながら、本当は自分が傷つくのが怖いだけだろ。俺のせいにするな」
亮はそう言うと、広重に背を向けた。
広重は叩かれた頬に手を当てて何も言えない。
しばらくするとまた電車が入ってきた。
亮は無言のまま電車に乗る。
広重は動けなかった。
電車は閉まるとホームから走り去っていく。
広重はその電車をただ見送った。
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