溺れる魚は切ない恋に身を窶（やつ）す

クラブケーキオランデーズソース・ビターピールの香り

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今日の売り上げの整理が終わり、貴彦は店の鍵を閉めて駐車場まで歩くとバイクに跨った。
帰りが遅くなると終電に間に合わなくなるので、貴彦はバイクで通勤していた。
マンションに戻ると、タイマーで暖かくなった部屋に入りホッと一息つく。


まさか、告白されると思わなかったな。
あんな場面見て、俺を好きになるって言うのが理解できないけど。


広重からの告白に正直戸惑っていた。
初日にあんな姿を見たのに、なぜ自分に好意を寄せたのか貴彦は謎だった。


こうならないように、透は道明さんに俺たちの関係を見せつけたはずだったのに、なんだか変な方向に向かってないか？


貴彦は体が温まって来るとシャワーを浴びにバスルームに入った。
金曜の夜に村瀬は泊まって、日曜日も泊まり、月曜日は夕飯だけ食べて帰って行った。
いつもより１泊多かったことは嬉しかったが、また日曜の夜まで会えないと思うと、会えた分だけ寂しさが募る。
普通の恋人同士では無いことは承知している。
しかも不倫関係だと言うことも。
村瀬には妻と娘がいて、この先どれぐらい付き合えるかも謎だ。
それでも貴彦は村瀬から離れられない。
そう思いながら、頭からシャワーを浴び目を瞑ると広重の顔が浮かんでビクッとした。


告白されて意識するとか、馬鹿だな。
全く、道明さんにも困ったもんだ。
俺を刺激するなよ。


広重に好意を持たれて、嬉しかったのは嘘ではなかった。
村瀬とは違って、広重と恋人になったらきっと大事にされると思ったのも事実。
それでも貴彦の心の中は村瀬で占められていた。
どうしても村瀬から離れられなかった。


もしこの先チャンスがあったらまた、告白しても良いですか？


広重の言葉が貴彦の心に引っかかっていた。
ズルいことを考えてしまいそうになる。


もし透と別れたら。
もし……。


弱い自分が、広重に甘えそうになっていた。
貴彦は村瀬にらいんを打つ。

【道明さんから気持ち打ち明けられた。透のせいだよ。変に刺激して彼を悩ませて。もう、道明さんを刺激しないでくれ。俺は何があっても愛してるのは透だけなんだから】

貴彦は送信するとフッとため息をついた。