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お好みの魚介とトリュフオイルのアヒージョ

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仕事の話は一切せずに、何気ない話に広重以外は盛り上がっていた。
広重は気がつくと、貴彦の事を何気なく見てしまっている。

「おふたりはいつからの付き合いですか?」

含みのある言い方で亮は村瀬と貴彦に尋ねる。

「吉国も俺達の関係知ってっから」

頬杖を付いて村瀬は貴彦に笑顔で言う。

「あ、そうなんだ。3年前かな。オーシャンが出来て直ぐ。この人、手が早いから」

貴彦はそう言ってグレープフルーツサワーを飲む。
広重は聞きたくなかった。
ふたりの馴れ初めなんかに興味はない。
嫉妬で頭の中がグルグル回る。

「手が早いだなんて、そんなに俺、節操なしじゃないよん。お前がそれだけ魅力あったって事」

魅力があったと言う村瀬の言葉に、広重は不本意ながら心の中で頷いた。

「そ?ならいいけど」

貴彦の言葉に、広重は、ん?と思う。なんだか貴彦が不満そうに感じた。

「俺が結婚したのが気に食わないんだろ?もう、貴彦ったら、嫉妬してぇ」

楽しそうに村瀬が言うと貴彦は笑う。

「全く。いつもこうだよ。人を弄るのが好きだからさ。道明さんも弄られまくりだろ?」

ふふふと笑いながら貴彦は広重に聞く。

「ええ。意地悪されてます」

話を振られて広重は嬉しくて即答した。
我ながら単純と広重は思った。

「俺は一途ですけどね」

突然、亮が口を挟んだ。
広重が貴彦に笑顔を向けるのが面白くない。

「吉国さんはさ、俺と透の関係知って引いたでしょ?男同士で恋愛とかびっくりだよね」

貴彦が亮を見る。

「いえ。俺は村瀬さんと違ってゲイだし」

亮の言葉に貴彦はびっくりする。
広重は焦った。
自分とのことをここで話されたくなかった。

「だから村瀬さんの話聞いても驚かなかったっすよ」

にっこり笑って亮は言う。
広重の背中はゾワゾワした。
いつ、亮から爆弾を落とされるか分からないからだ。

「一途って言ったよね。吉国さんの好きな人ってどんな人?」

貴彦の質問に、広重はドキリとする。
亮がどう答えるのか不安で顔を下に向けた。
亮は広重を見ることなく、ニッコリ笑う。

「すげー可愛い奴です。一生懸命で、素直で。でも、反抗的で手に負えない。だから意地悪したくなる」

横で聞いていて、広重は恥ずかしくて仕方ない。
俯いているが、貴彦が自分を見ている気がして怖くて顔を上げられない。

「その人、もう恋人なの?」

貴彦がまた亮に尋ねる。

「いえ。まだ」

それ以上、亮は言葉を止めた。貴彦もそれ以上は聞かなかった。

「さぁて、そろそろ帰るべ。俺、お前の家泊まるわ」

村瀬が貴彦に言う。広重はその言葉にズキッとする。

「大丈夫なの?」

意外そうに貴彦が村瀬に言う。

「うん。オーシャン居る時に、奥さんには朝まで飲むって、道明と吉国の写メ送っておいた」

村瀬が料理の写真をやたらと撮っていたなと広重も思っていたが、まさか自分や吉国もいつの間にか撮られていて、それが村瀬のアリバイ工作に使われるとは思わなかった。
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