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cinque

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ジュリの大学受験も本格化していた。
とりあえず今自分がやるべき事は、センター入試に真剣に取り組む事。未来の扉を自分で開いていく事だった。
健志が亡くなった原因を究明したい気持ちもあり、健志の女友達にも話を聞き健志が使っていたサイトを聞き出したが、なかなか手掛かりになるものは得られなかったた。
まだどこかで、健志のように犠牲になっている人間が居るかも知れなかったが、そんな物に手を染めてしまう者や、染めてしまった健志に正直同情する気にはなれなかった。
そう言った違法な闇が蔓延する社会。
同情しそれを否定したら、自分も伊丹も否定されなければならない存在。
闇の世界にもある需要と供給。
光と影は常に紙一重なのだとジュリは思っている。
現実は光に相反するその闇は光よりも強くて深く、この世界にいくらでも蔓延し浸潤している。
大きな口を開け獲物が吸い込まれるのを待っている。
人間の欲望に漬け込む闇を手玉に取る一団が、今日も狂ったように嘲笑っていた。

「最近、売り上げが落ち着いて来てねーか?」

古びたビルの一室に数人の男達がそれぞれ寛いでいる。
特に何かをしようと言う感じでもなく、ただダラダラとしていた。

「ちょうど受験シーズンてヤツ?大学や私立高校がもうじきテストだろ?3月に受験が終わるまでは今までのようには無理かもな」

そんな声も聞こえる。

「ったく、もっと広めらんねーの?メンドクセー作業ばっかりだしよ」

かったるそうな男の声。

「仕方ねーだろ。足が付きやすいんだ。裏サイトのネットで一気に売り捌いた方がまだ楽だろ?」

そう言って、パソコンの画面を眺める者が、クリックしていくと真っ黒の画面から真っ白な画面へと切り替わった。

「まあまあだな。まだ需要は十分あるさ。今のうちにセンセーに材料を増産しておいてもらわないとね」

発注の画面で数字を確認して、男は一旦パソコンを閉じた。

「しっかし馬鹿だよなぁ。こーんな粗悪品に馬鹿みたいに金使ってさ。何が入ってるかもわっかんねーのに、俺だったらゼッテー使わねーわ」

あははと男達の笑い声。

「そこがミソだろ。俺らみたいな粗悪品が作ってるんだ、マトモな物ができるわけねーって」

ギャハハと笑い声は盛り上がる。

「誰が言い出したんだかねー。“六本木の鴉”なんてダッセー名前をさ」

ひとりの男が小袋を他の男に投げながら言う。

「最初にばら撒いたのが六本木で、そこから流行り出したからだろ?カラスってのがわかんねーけどさ」

パソコンをいじっていた男が言う。

「なんでもガツガツ食うカラスみてーによ、いっときの快楽のためにこれ飲んでハイになって、バカみてーにオトコもオンナもケツ振ってるからじゃね?」

小袋を受け取った男が、小袋に入っている錠剤を、切れかかっているような薄暗い蛍光灯の光に透かして見ている。
六本木の鴉と呼ばれる、小袋に入った錠剤。
それが今では、高校生、大学生を中心に爆発的に拡散されている。
北は北海道、南は九州沖縄まで、使用者の殆どのリピーターが若年層だった。

「足がつく前に売りまくって稼いでおかないとね。まぁ、簡単に足がつくまでには時間が掛かるだろうけどさ」 
 
男達は不敵な笑い声を上げ、六本木の鴉を投げては宙に飛ばした。
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