啓示~Luna e sole~

五嶋樒榴

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成熟

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別荘での生活は、いつもと違って新鮮だった。
不便の中の快適さに、2人はこの別荘ライフを満喫していた。
誰の目も気にすることなく、詩音は長谷川に抱きつき、長谷川も詩音の可愛い唇を堪能した。
素直に詩音を感じ長谷川の中で詩音は、今まで以上に大切な存在になっていた。今だけは、この幸せな夢から醒めたくなかった。
だがこの異世界のような2人だけの幸せな生活が終わったら、元の生活に戻ったら、もう、お互いが変わらなくてはいけないと長谷川は分かっている。
この生活を過ごし終わって東京に戻ったら、詩音と新しい形の家族になりたいと思っていた。
お互いを必要としながらも、依存し合わない関係。
だからこそ、今夜断ち切らなければいけないと思った。
長谷川の、詩音に対する本当の気持ちを素直に認め理解してもらいたかった。
「ねぇ詩音。明日はもう東京だ。ひとつお願いがあるのだけど」
ベッドの中で、詩音に腕枕をしながら長谷川は言った。
「何?」
詩音はもう眠くなっていて、長谷川にぴったりとくっついていた。
際限なく甘えている。
「私の呼び名なんだが、また、先生に戻してくれないかい?詩音だってもう何も怖くないだろう?私の元をいつかは巣立つ大人になるんだ」
「う、ん。でも、名前で呼びたいなぁ。先生だと、もう落ち着かない。修司さんの方がいい」
長谷川は無言で詩音の髪を撫でる。
愛おしくて、大切で。
「……私は詩音を愛してる。詩音も私を愛してる。でも、どこかで私達は、一線をずっと引かなくてはいけないんだよ。詩音に名前を呼ばれると、私はそれを我慢できなくなる。私の独占欲は暴走して、いつか詩音を穢す日が来てしまうかもしれない」
長谷川の瞳に映る詩音は、幸福そうに微笑む。
「修司さん。僕は、そんな日が来てもいいぐらい修司さんを愛してる。ずっと僕は修司さんを求めている。もちろん、今までの僕とは違うよ。愛してるから修司さんに抱いて欲しいって思ってる」
詩音の言葉に長谷川は首を振る。
「それはいけない事だ。今までの生活に戻ろう」
長谷川はそう言うと、詩音の唇を塞いだ。
「んんッ、んふッ」
詩音が甘い吐息を漏らした。
詩音の滑らかな舌が長谷川の激しい舌遣いに翻弄される。
「詩音、愛してる」
長谷川が詩音を見つめながら言うと、詩音は嬉しそうに頬を赤らめる。
「修司さんに、愛してるって言われるのが嬉しいの。もうずっと東京に戻りたくないな。ずっとこのまま、ここで2人だけで暮らしたい」
詩音の甘い囁き。
長谷川もこの世界に、詩音しかいらないと錯覚を起こしそうだった。
でも、その甘い蜜を知ってはいけない。
自分の愛は、詩音を慈しみ、詩音に捧げるためでなければならないと思った。
「詩音、本当に君を愛してる。君が初恋の人に似ていると思った時から。そして一緒に暮らすうちに、本当は私が君に依存していたんだ。でも私は自分を誤魔化していた。何度も君を拒否しながら、私は自分を保っていた。お願いだ詩音。私の名前を呼ばないでくれ。もうこれ以上、君との生活を壊したくないんだ」
お互いの孤独を埋めながら、そばに置いて守るというのは簡単だ。
だが、詩音の未来には、それではダメだと分かっている。
「お願いだ。私を元の私に戻してくれ。先生と呼んでくれ」
長谷川の悲痛な叫び。どんなに愛しても、越えてはいけない関係。
長谷川の葛藤が痛いほど詩音にも分かった。
長谷川が涙を流している。詩音は長谷川の頬に手をそっと当てた。詩音のその掌にも長谷川の涙が流れ落ちてきた。
この別荘での生活は、長谷川が与えてくれたひと時の夢。
どんなに愛し合っていても、肉体が結ばれることはこの先も永遠にない。
ただ、心はいつもお互いを愛し固く繋がっている。
詩音も、もう成長しなければいけないと覚悟した。
「……先生、ごめんなさい。分かっているんです。僕も先生を失いたくないって。先生、愛してます。あの日、僕を見つけてくれてありがとう」
長谷川は、両手の掌で涙を拭って詩音を抱きしめた。詩音も泣きながら長谷川に抱きついた。
2人は抱きしめあったまま眠った。
もうこのまま、眠りから覚めたくないと思いながら。
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