優しいあなたは罪な人

五嶋樒榴

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新しい時が流れる

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美紅は東堂ホールディングスの社員用通用口の前に立つと、社員証をバックから出して首に下げた。
緊張しながら社員証をセキュリティーに通して中に入る。

「おはよう!」

ロビーに環の姿があり美紅はびっくりする。

「真壁課長!おはようございます」

美紅は笑顔で環に挨拶をした。

「まさか、ここで待っていてくれると思ってなかったのでびっくりです」

嬉しそうに美紅が近付くと環は笑う。

「緊張してるだろうし、慣れない場所だから迎えにきちゃった。ちょうどコーヒーも飲みたかったし」

1階のテナントのカフェを指さして環は言う。

「今日からよろしくね。とりあえず部署に行きましょう。営業先から来るメンバーも居るから全員いないけど」

美紅が今日から勤務する企画営業部は、取締役で営業部長の法然の下で働く環が企画営業部2課の課長だった。
環と共に企画営業部に到着すると、直ぐに2課のメンバーを紹介されて、美紅は終始緊張で後半は顔が引き攣ってしまった。
法然部長は、想像以上に若くイケメンで別の意味で緊張したが、思ったより気さくでお茶目な感じもあり、美紅はここに転籍することができて良かったと安心した。

「でね、でね、本当に素敵な人ばかりだったんだよ!みんなも優しくてねッ!」

シェアハウスに戻ってから、美紅はずっと興奮して龍彦に語る。
二人はダイニングで、美紅手作りの夕飯を食べていた。

「少しは落ち着けって。楽しかったのはよく分かったから」

まるで子供だなと龍彦は笑う。
美紅はつい興奮していたことに気がつき照れ臭そうに笑った。

「でも良かったな。楽しそうな職場で好きな仕事できるなら最高じゃん。明日からも頑張れよ」

「うん!」

二人の世界になっているところに、りほと崇人が帰って来た。

「ただいまー」

「ただいま」

「おかえりなさい」

「おかえりー」

崇人がダイニングテーブルを見る。

「おー!うまそう。もしかしてビーフストロガノフ?」

嬉しそうな顔で崇人は尋ねる。

「うん。今日は初出勤だったし、ちょっと奮発して良いお肉買って来ちゃった」

美紅がシェアハウスに来てから、シェアハウスのメンバーの外食が減っていた。

「美紅ちゃんが東堂移ったから、美紅ちゃんのご飯食べる機会減っちゃうのかな」

悲しそうにりほは言う。

「美紅をアテにしないで、りほもちゃんとこれを機に飯を作れ」

龍彦が不満気に言うとりほは笑って誤魔化す。

「美紅ちゃんが来てから甘え過ぎてたよな、俺たち。前は別々に食事してたのにさ」

崇人も反省する。

「一番甘えてんのは沙優と隆和だろ。あいつら不規則なくせに美紅の飯狙ってるしさ」

「別に良いんだよぉ。私が一番早く帰って来てたんだし、食費だって言ってみんな十分すぎるほどお金出してくれてたんだもん」

別居した美紅を気持ちよく受け入れてくれたみんなに、出来ることで恩返しがしたくて始めた夕飯作りだった。

「でもこれからは仕事も大変になるし、料理は手抜きでいいからね」

りほの言葉に龍彦は吹き出す。

「おまッ!それ、お前が言う?」

呆れる龍彦に美紅と崇人も笑う。

「だって私が作ったら、食べ物じゃなくなるよ?」

それは龍彦も崇人も否定しなかった。

「ちょッ!あんたたちそこで黙るのやめてくれない?」

りほがムッとすると美紅は微笑む。

「でも後片付けとか、りほさんがほとんどやってくれるから助かります」

「でしょ?でしょ?ほらぁ、どっかのお姉ちゃんより、私は役に立ってるわよ」

沙優のことを言われると、龍彦は弟として何も言えなくなる。
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