長い夜、蒼い月

夜明けの蒼い月

１４８

成田空港の出発ロビーには、ジェイクと優姫も来てきた。

「ユーキなんて、俺の迎えに来て迷子になったもんな。今日は俺がいたから迷わずこれただろ」

ニヤニヤしながらジェイクが言うので、優姫は膨れっ面で由紀子の腕を組む。

「由紀子さん、ひどいでしょ？私きっと成田来るたびに言われるんだよ」

由紀子はジェイクと優姫が来てくれて本当に良かったと思った。別れの直前まで涙を流したくなかった。
一夜はただ微笑んでいた。余計なことは一切言わない。
今だって、手を離したくなくて仕方なかったが、ジェイクと優姫の手前グッと我慢をする。

「ジェイク、優姫ちゃん。私がいない間アンソニーをよろしくね。寂しがり屋だから、繊細だから」

由紀子の泣きそうな笑顔に優姫もつられて泣きそうになるがグッと我慢をする。

「大丈夫だよ、ユキコ。アンソニーが寂しくなったら、俺が添い寝してやるから」

ジェイクが冗談を言うと、優姫と一夜は冷ややかな目で見た。

「そろそろ行くわ」

いよいよ時間が来てしまった。由紀子は一夜の前に立つと、背伸びをして首に腕を回した。
一夜も由紀子の腰と背中に手を当て身体を支える。
2人は唇を重ね、最後の抱擁を済ませた。

「いってきます」

「いってらっしゃい」

涙が溢れ落ちる前に由紀子は歩き始め、背中を向けたまま手を振る。
一夜、ジェイク、優姫はその後ろ姿が見えなくなるまで見送った。

「行っちまったな。本当に、行っちまったな」

ジェイクはしみじみ言う。我慢していた優姫は、ジェイクの背中に隠れて号泣している。

「すぐまた会えるさ。年末年始、僕は由紀子に会いに行く。そのまま帰ってこないかも」

悪戯っぽく一夜は言う。

「それはどうかな。仕事第一のアンソニー君」

冷やかすようにジェイクはいう。

「デッキに行くか。最後飛び立つところまで見送ろう」

子供のようにはしゃぐジェイク。一夜のためだと分かっていた。
まだ出発まで1時間近くあった。

「なあ。俺さ、もうアメリカ本社には戻らない」

優姫が離れて飛行機を見ている姿を目で追いながらジェイクが言う。

「マジか？優姫のため？」

ジェイクは頷く。

「正直、ユーキはマイケルにもう会いたくないと思うんだ。もし呼び戻されても俺は日本に残る」

一夜は笑った。

「相当だな」

冷やかしながら言うとジェイクは笑った。

「まあな」

一夜は右手を出した。

「いつか離れても由紀子と一緒に日本に遊びに来るよ。ジェイクは僕の大親友だ」

ジェイクもその手を握った。
ふと視線を感じると優姫がにやけた顔で見ている。
ジェイクはまだ懲りもせず、自分と一夜で妄想していると呆れた顔で優姫を見た。
一夜は優姫のBL好きを知らないので、ジェイクと優姫に流れる不思議な空気に頭の中はクエスチョンマークだった。