貉達の燔祭 （鳴かない杜鵑 spin off３）

シチ

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「鷹雄さん。良いのか？摂子を一彦と行かせて」

鷹雄達を見守っていた正二が鷹雄に尋ねる。

「一彦も摂子を本気で愛しとる。それでも鷹雄さんに摂子を返しに来てくれたんだ」

好い男に成長した一彦を見れば、それは鷹雄も十分に分かっている。
若い時の様に、欲望だけで摂子を奪おうとしていないことも。

「……良くないっすよ。だが、夢子の幸せを願ったら、ヤクザの父親より、真っ当な男の娘として暮らした方が幸せだ」

摂子を守れなかった自分には、夢子に父親だと名乗る資格は無いと思っている。
結局は組織を維持し守りながら、摂子を守ることは出来なかったのだから。
1人の女を守るほどの力は無かったのだから。

「ただ正二さんを恨むかもしれん」

鷹雄は冗談めかして笑う。
一彦に摂子を手引きしたのは、正二だと鷹雄はもちろん察している。
だが、本心は感謝もしている。
摂子に、愛する男鷹雄の子供を産ませてくれたのだから。

「業が深いんはどうにも出来やしねぇ。欲しくて欲しくて。今なら美都子の気持ちがよく分かるわ」

自分がどんなに美都子に愛されていたのか、分かってはいたが痛みまでは察することなど出来なかった。
自分が受けて初めて知る痛み。
それでも鷹雄は美都子に対して、後悔する気持ちはなかった。
与えてやる事は出来なかったが、受け止める事は出来たと思ったから。

「鷹雄さん。摂子はこの先きっと幸せになる。自分の足で生きていけるさ」

「ああ」

その3年後、摂子と一彦の間に、男の子が産まれたと鷹雄は正二から聞く。
摂子は2度目に愛した男、一彦の子供を産めた事に、今度こそ本当に幸せになると鷹雄に心の中で誓った。


そして飯塚鷹雄はその後伴侶を得る事はなく、80歳を超えた現在も六代目政龍組組長として、君臨し続けるのだった。