77 / 81
シチ
12
しおりを挟む
美都子が亡くなったのは、季節が冬に入った頃だった。
流石に六代目政龍組組長の妻の葬儀は、歴代の組長の時と引けを取らず厳戒態勢の中盛大に行われた。
「組長」
ヤスが鷹雄に耳打ちした。
鷹雄はヤスが示した方向に目を向ける。
葬儀に一彦と共に、赤ん坊を抱く摂子もいて、鷹雄はびっくりして摂子を見つめた。
美都子の死を、一彦は身内なのだから知って当然なのは分かるが、摂子が同伴していた事に胸が騒ついた。
摂子も鷹雄に気が付き、一彦から離れて鷹雄に歩を進めた。
「摂子」
目の前の摂子に鷹雄は釘付けになる。
「……この度はご愁傷様です。まさか美都子さんが、こんなに早く亡くなるなんて思ってもいませんでした」
久しぶりに聞く摂子の声、久しぶりに見る摂子の姿に、鷹雄は不謹慎ながら摂子を抱きしめたい衝動に駆られた。
「子供が産まれたのか?」
摂子が胸に抱く赤ん坊を鷹雄は見詰める。
産着に包まれ、小さく弱々しい姿に、鷹雄は恐る恐る指を近づけた。
指先に触れた、柔らかな頬のふにゃっとした感触。
「どうしていたんだ?突然姿を消して、どれほど探したか」
「ごめんなさい。鷹雄さんとの結婚を夢見ていたけど、やっぱり怖くなってしまったの」
それが本当の理由でないと、鷹雄は赤ん坊を見つめながら思った。
この子を守るために、摂子は姿を消したのだと。
そして自分は結局、最後まで摂子を守ることができなかったと。
「……鷹雄さんの元から離れて、神戸に移って一彦さんのお世話になって、そしてこの子が産まれたんです」
摂子は一彦の子供のように嘘をつくが、鷹雄は目の前にいる赤ん坊が、紛れもなく自分の子だと確信して愛おしそうに見つめる。
目元が鷹雄にそっくりだった。
「子供の名前は?女の子だな」
「ええ。夢子です」
鷹雄は今すぐにでも、夢子を腕の中に抱きしめたかった。
本気で愛した、生涯をかけて守ると決めた女との愛しい我が子。
「鷹雄さん。私、今、幸せです。一彦さんと、これからも幸せになります」
摂子の凛とした笑顔に、母となり強くなったと鷹雄は思った。
結局摂子を、そして子供を守れなかった自分は、もうこれ以上摂子の側にいる資格がないと思うしかなかった。
「だから言ったろ。いつか惚れた男の子供を産むって。これからもずっと幸せにな」
鷹雄はそう言って笑った。
その笑顔に、摂子は胸が苦しく締め付けられる。
鷹雄の前から逃げた自分は、もう鷹雄の腕の中には戻れない。
「鷹雄さんも、この先もお元気で」
摂子はそう言って頭を下げると、一彦の元に戻った。
鷹雄は寄り添い歩く二人の姿を見つめる。
遠くなっていく二人を見送りながら、幸せになれ。と呟いた。
流石に六代目政龍組組長の妻の葬儀は、歴代の組長の時と引けを取らず厳戒態勢の中盛大に行われた。
「組長」
ヤスが鷹雄に耳打ちした。
鷹雄はヤスが示した方向に目を向ける。
葬儀に一彦と共に、赤ん坊を抱く摂子もいて、鷹雄はびっくりして摂子を見つめた。
美都子の死を、一彦は身内なのだから知って当然なのは分かるが、摂子が同伴していた事に胸が騒ついた。
摂子も鷹雄に気が付き、一彦から離れて鷹雄に歩を進めた。
「摂子」
目の前の摂子に鷹雄は釘付けになる。
「……この度はご愁傷様です。まさか美都子さんが、こんなに早く亡くなるなんて思ってもいませんでした」
久しぶりに聞く摂子の声、久しぶりに見る摂子の姿に、鷹雄は不謹慎ながら摂子を抱きしめたい衝動に駆られた。
「子供が産まれたのか?」
摂子が胸に抱く赤ん坊を鷹雄は見詰める。
産着に包まれ、小さく弱々しい姿に、鷹雄は恐る恐る指を近づけた。
指先に触れた、柔らかな頬のふにゃっとした感触。
「どうしていたんだ?突然姿を消して、どれほど探したか」
「ごめんなさい。鷹雄さんとの結婚を夢見ていたけど、やっぱり怖くなってしまったの」
それが本当の理由でないと、鷹雄は赤ん坊を見つめながら思った。
この子を守るために、摂子は姿を消したのだと。
そして自分は結局、最後まで摂子を守ることができなかったと。
「……鷹雄さんの元から離れて、神戸に移って一彦さんのお世話になって、そしてこの子が産まれたんです」
摂子は一彦の子供のように嘘をつくが、鷹雄は目の前にいる赤ん坊が、紛れもなく自分の子だと確信して愛おしそうに見つめる。
目元が鷹雄にそっくりだった。
「子供の名前は?女の子だな」
「ええ。夢子です」
鷹雄は今すぐにでも、夢子を腕の中に抱きしめたかった。
本気で愛した、生涯をかけて守ると決めた女との愛しい我が子。
「鷹雄さん。私、今、幸せです。一彦さんと、これからも幸せになります」
摂子の凛とした笑顔に、母となり強くなったと鷹雄は思った。
結局摂子を、そして子供を守れなかった自分は、もうこれ以上摂子の側にいる資格がないと思うしかなかった。
「だから言ったろ。いつか惚れた男の子供を産むって。これからもずっと幸せにな」
鷹雄はそう言って笑った。
その笑顔に、摂子は胸が苦しく締め付けられる。
鷹雄の前から逃げた自分は、もう鷹雄の腕の中には戻れない。
「鷹雄さんも、この先もお元気で」
摂子はそう言って頭を下げると、一彦の元に戻った。
鷹雄は寄り添い歩く二人の姿を見つめる。
遠くなっていく二人を見送りながら、幸せになれ。と呟いた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【R18】今夜、私は義父に抱かれる
umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。
一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。
二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。
【共通】
*中世欧州風ファンタジー。
*立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。
*女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。
*一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。
*ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。
※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
【R18】かわいいペットの躾け方。
春宮ともみ
恋愛
ドS ✕ ドM・主従関係カップルの夜事情。
彼氏兼ご主人様の命令を破った彼女がお仕置きに玩具で弄ばれ、ご褒美を貰うまでのお話。
***
※タグを必ずご確認ください
※作者が読みたいだけの性癖を詰め込んだ書きなぐり短編です
※表紙はpixabay様よりお借りしました
【完結】一夜の関係を結んだ相手の正体はスパダリヤクザでした~甘い執着で離してくれません!~
中山紡希
恋愛
ある出来事をキッカケに出会った容姿端麗な男の魅力に抗えず、一夜の関係を結んだ萌音。
翌朝目を覚ますと「俺の嫁になれ」と言い寄られる。
けれど、その上半身には昨晩は気付かなかった刺青が彫られていて……。
「久我組の若頭だ」
一夜の関係を結んだ相手は……ヤクザでした。
※R18
※性的描写ありますのでご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる