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美都子の声が摂子の心を引き裂く。
摂子は戸灘にされた事がフラッシュバックして、体がブルブルと震え始めた。

「何、言った?」

聞き間違えかと鷹雄は驚き美都子を見る。

「お父さんの愛人だって言ったのよ。愛人て言うより玩具よね。せっちゃんはお父さんにもう穢されてたのよ!」

摂子に嫉妬する美都子から、摂子が戸灘の愛玩だった事を聞き鷹雄は声を出せなかった。
いつからか、元気がなくなった摂子を思い出しあの頃かと考えるが、鷹雄はそれでも信じたくなかった。

「……オヤジが?だって、摂子はまだ子供だったじゃないか。適当な事ふかしてんじゃねぇよ」

「私、見たんだものッ!せっちゃんがお父さんに抱かれてるところッ!」

摂子はもう聞きたく無かった。
聞きたくないと言うより、もう鷹雄に話してほしく無かった。
震える体のまま、摂子は廊下に出た。

「もう、やめて……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさ……」

摂子は謝りながら廊下に崩れ落ちる。

「摂子!」

鷹雄が摂子に走り寄り体を支える。

「お前は何も悪くない!謝らんでええッ!」

鷹雄はこんな事になって、助けてあげられなかった自分を責める。

「ごめんなさい。私が悪いの。この家に来たのが悪いの」

摂子は両手で顔を覆い、ただただ謝ることしかできない。

「そんな事ない!俺はお前がいてくれて良かった!俺も真一も、どんなにお前が好きか」

鷹雄がつい好きと言ってしまい、美都子はカッとなった。

「せっちゃんなんて誰からも本気で愛されるわけがないでしょ!混血って毛色が変わった女だから鷹雄さんだってあんたに興味を持ってるだけよ!お父さんをたぶらかして愛人になったくせに!あんたはお父さんにしたってただの玩具だったのよ!鷹雄さんに優しくされてるなんて、好かれてるなんて、勘違いしてんじゃないわよ!」

美都子ももう我慢出来なかった。摂子を追い出したくて仕方ない。
鷹雄は美都子を睨むも何も言わない。これ以上、摂子を傷つけたくなかった。

「摂子。もう寝ろ。これは夢だ。悪い夢を見てるだけだ」

鷹雄は力強く摂子を支えると、摂子を部屋まで連れていった。
美都子はその場に座り込むと、口元に笑みを浮かべふふふと笑う。

「……出て行け。疫病神」

美都子が呟き笑い続けていると、鷹雄が廊下に戻ってきた。

「俺たちも寝るぞ。立て」

ふふふと笑い続ける美都子を支えて立ち上がらせると、鷹雄は美都子と部屋に入った。
結局摂子のことを何も守れてなかったと、鷹雄は布団に入っても目を瞑る事ができなかった。
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