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美都子が夕飯を終えても、鷹雄は家に戻ってこなかった。
今日はどこの女かと、イラつく気持ちで美都子は一人寂しく夜を過ごす。
時間だけが虚しくすぎてゆく。

「姐さん。会長が戻りました」

鷹雄の舎弟の声に、美都子は急ぎ紅を引き直すと、パタパタと玄関まで出迎えにいく。
鷹雄は酒が入っていて、機嫌が良さそうだと美都子は思った。

「お帰りなさいませ」

「ああ。ヤス、部屋に水を持ってきてくれ」

鷹雄は、共に帰ってきた舎弟のヤスに命じてスタスタと部屋に向かうが、摂子の部屋の前で歩を止めた。

「摂子はもう寝てるんか?」

「もう寝ているんじゃないかしら」

鷹雄は腕時計を見る。

「そうか。じゃあ、明日にするか」

鷹雄がそう言って部屋に入り美都子も続く。

「また、せっちゃんにチョコレート買っていらっしゃったの?」

美都子が尋ねると、鷹雄は服を着たままゴロンと布団に横になる。

「真一とおやつにと思ってな。子供ん頃から好きやったからな」

鷹雄は目を瞑って言う。

「せっちゃんももう高校生よ。全く、いつまで経ってもせっちゃんに甘いのね」

皮肉まじりに美都子は言う。

「美都子」

鷹雄は美都子の手首を握って自分に引き寄せる。

「俺が帰ってくるってちゃんと口紅つけとんだな」

鷹雄に見つめられて美都子は頬を染める。

「だって、ちゃんと綺麗にしておかないと、あなたが帰ってこなくなったらって」

不安に思っていることを美都子は言う。

「すみません、水お持ちしました」

廊下からヤスの声が聞こえて、鷹雄は美都子の手首を離した。

「おう、入れ」

美都子は良いところに邪魔が入ってヤスをキッと睨みつける。美都子の喜怒哀楽には慣れているヤスは、全く無視して鷹雄に水の入ったコップを渡した。

「真一は寝とるか?」

水を一気に飲み干すと鷹雄はヤスに尋ねる。

「へい。誰かしらそばにおるんで真一も逞しくなってきましたわ」

鷹雄は真一と顔を合わすことがほとんどない。
真一は、朝食は摂子と食べて、摂子が学校に行っている間は鷹雄の子分が面倒を見る。そして夕飯も摂子と共にした後は、子分たちと別棟で眠る。
親子と言っても、ほとんど一緒に過ごす時間などなかった。

「もう下がっていい」

鷹雄が言うと、ヤスはコップを持って部屋を出て行った。
美都子は直ぐに鷹雄にしなだれ掛かる。

「風呂、入ってくる。先に寝てていいぞ」

鷹雄は立ち上がって部屋を出る。

「お背中、流すわッ!」

美都子が追うが、鷹雄は笑顔で首を振る。
笑顔だが、目は笑っていなかった。
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