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端緒

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1934年1月1日に、飯塚鷹雄は7人兄妹の次男として誕生しました。
川崎で生まれ育ったと聞きます。

父は工場で働き、母は子育てに追われるごく普通の主婦だったようです。

1941年に太平洋戦争が始まると、父親はすぐに召集され、数年後には長男もついで召集。次男だった鷹雄が母親と3人の姉、妹、弟を守っていく立場になっていたようです。

そしてその戦争で、父親も母親も亡くなり、兄弟たちも亡くなったり消息不明になったりとバラバラになって、鷹雄は戦争孤児の1人になったのでした。
川崎は工場地帯だった事もあり、米軍から狙われやすかったのでしょう。


「ほぉ。坊主。飯塚鷹雄って言うんか。いくつだ?」

食べる物もなく、東京までやって来た鷹雄の目の前に、大柄の人相の悪い男が立ち塞がったのです。

「11」


目の前の男が、意外にもとても優しい目をしていて、それが鷹雄には強烈に印象的だったようです。


「儂んとこ来るか?お前みたいな面構えは嫌いじゃねぇ。ついて来い」


これが、鷹雄と杉田すぎた権蔵ごんぞうの出会いでした。

杉田権蔵は、関東で力を持つ任侠、政龍組の二代目組長だったのです。
そして私の父の大伯父に当たる人でした。

ただその大伯父の杉田は翌年病に倒れ還らぬ人となり、鷹雄は直ぐに三代目組長となった今川いまがわひろしの家に引き取られたのでした。

まだこの時は、私は鷹雄の存在も知らず、鷹雄と出会うのは、父が四代目政龍組組長となった時でした。
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