僕と貴方と君と

五嶋樒榴

文字の大きさ
上 下
116 / 130
夏休みを満喫してます。

しおりを挟む
8月になると巷はお盆休みの話で盛り上がる。
美峰の営業所は12日から19月までを夏季休業にしていたので、正直お盆前のこの時期は仕事はそんなに忙しくなかった。

「今年のお盆は実家でまた過ごすのか?」

所長の久世が美峰に尋ねる。

「いえ。今年は、旅行に行くので」

照れながら美峰は言う。

「へー。最近、なんか変わったよな。ゴールデンウィークも旅行行ってたし。さては、マジで彼女が出来たか?」

イヒヒと久世は笑う。

「えー!柊木さんに恋人?やっぱり?」

「やっぱりねー」

みんなが口々にやっぱりと言うので、美峰は恥ずかしくなる。

「…………あ、その、まぁ」

真っ赤になって美峰が言うと久世はガッカリする。

「あー!これでお一人様は俺だけじゃん!なんだよー。チックショー」

楽しそうに久世は言う。

「所長は実家に戻られるんですか?」

「はぁ?帰らねーよ。帰ったって結婚しろってうるせーだけだし。こっちでダラダラ過ごすだけだ」

そう言いながらも、楽しそうな顔だなと美峰は思った。
プライベートをあまり語らないが、前に見合い写真を見せられた時から、久世は相手がいるように美峰は思っている。
それは、秘密にしなければいけない相手なのではと勘繰ってしまった。

「まぁ、お互い仕事のことは忘れて、お盆ぐらい楽しもうや」

久世がニヤニヤしながら美峰に言う。

「そうですね」

そう笑顔で返したが、きっとお盆明けに飲みに誘われて、根掘り葉掘り聞かれるだろうと美峰は苦笑した。
優星は美峰より早目のお盆休みを取っていた。
お盆だからと言って銀行を閉めるわけにはいかないので交代で休むのだが、優星は旅行の12日から14日をもう先に考えていたので、8日から16日をお盆休みにしていた。
美峰と12日から19日まで一緒に過ごせると思うと、後半の休みが合わなかったのは仕方ないと今回は諦めた。
とは言っても、優星は夏休みに少しでも多く明星と過ごせるために、夏は有給も使って長期の休みを毎年取る。
他の行員たちからは『よっぽどシロなんだな』と揶揄われる。
行員の長期休暇は、不正をあぶり出す調査期間とも言われているからだ。

「葉山、ちょっと」

支店長から声をかけられて優星は支店長の前に立つ。

「はい。なんでしょうか?」

美峰の会社の新規融資かなと思った。

「昼にちょっといいか?ここで話すような話ではないんで」

支店長の言葉に優星は顔を硬らせる。
何か失敗があったかと脳内を駆け巡らせる。

「仕事の話じゃないから安心しろ。詳しくは後で」

仕事以外の話ということは、またかと優星は思った。
優星を気に入ったクライアントが、是非うちの娘の婿にとよく言われるのだった。

「…………いつもの事でしたらすみません。実は、大切な人がいるので」

優星が小声で言うと、支店長は優星をジッと見つめた。

「ああ、そうか!あ、それなら良いんだ」

ホッとして支店長は言う。実は支店長も優星にそう言う話を勧めるのが苦痛だった。
優星に恋人がいると分かれば、きっと周りに色々聞かれると思い黙っていたが、優星は美峰の存在は秘密のまま、恋人がいることはもうバレても良いと思った。
支店長に言っただけでもスッキリした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

僕は社長の奴隷秘書♡

ビビアン
BL
性奴隷――それは、専門の養成機関で高度な教育を受けた、政府公認のセックスワーカー。 性奴隷養成学園男子部出身の青年、浅倉涼は、とある企業の社長秘書として働いている。名目上は秘書課所属だけれど、主な仕事はもちろんセックス。ご主人様である高宮社長を始めとして、会議室で応接室で、社員や取引先に誠心誠意えっちなご奉仕活動をする。それが浅倉の存在意義だ。 これは、母校の教材用に、性奴隷浅倉涼のとある一日をあらゆる角度から撮影した貴重な映像記録である―― ※日本っぽい架空の国が舞台 ※♡喘ぎ注意 ※短編。ラストまで予約投稿済み

官能小説家の執筆旅行

市樺チカ
BL
山奥の家に籠って筆を執る毎日を送る官能小説家の真田伊織。新刊の発行を前に煮詰まった彼は、担当の勧めで創作意欲を掻き立てる旅に出ることにした。 手伝いとして雇った強面の大男、熊井と共に気の向くままに各地を巡る。 (性描写がある話には※をつけています) (ムーンライトノベルズにも投稿しています)

処理中です...