21 / 37
2章 夏〜秋
僕は断っているんです
しおりを挟む
展望ラウンジは、座席がすべて窓に向かって設置しているので、東ノ院くんとは、二人掛けのソファに横並びで座ることになってしまった。なるべく二人の間が空くように座る。
「さきほどのデザートでは物足りなかったでしょう?お勧めの季節のパフェはどうですか?」
「いえ、お腹一杯なので、アイスティだけでいいです。」
って言ったのに、なぜ季節のパフェを頼むの?
「すみません、是非一口食べていただきたくて、頼んでしまいました。全部食べなくて良いので味見してください。」
そう言われたら、少し食べるしかないじゃないか。さっさと用件伝えて帰りたかったのに。
「春人くんは、私のこと全然覚えていなかったんですね。」
気まずい事実を言われて、俯いてしまう。
「いいんです。沢山いるαの中の一人ですから。なのに、今日こうやって会いに来てくれて、とても嬉しいです。」
「そ、それは、母さんがー」
勝手にお見合いを受けたと続けたかったのに、東ノ院くんは、遮って別のことを言う。
「それにしても、」
と言って、東ノ院くんは僕を見て、
「ネックガードしてない春人くんってとても新鮮ですね。」
スッと指先で僕の首を撫でる。
「ひんっ。」
変な声を出してしまい、慌てて口を抑える。
「首、敏感なんですね。他の所もかな。」
「学園の外では、外してるんです。」
「そうですか。でも付けておいた方がいいですよ。こんな風に…」
と言って僕のうなじに息を吹きかけた。
「ひゃっ!」
「可愛いあなたにたまらなくなって、ガブっとしてしまうかもしれませんよ。」
僕は慌ててうなじを手で隠す。
「ふふ、冗談ですよ。きちんと無事に家まで送り届けることを春人くんのご両親にお約束しましたから安心してください。あ、ほら来ましたよ。」
ウェイターがアイスティとコーヒーそしてパフェを持ってきた。
ウェイターは、迷うことなく僕の前にパフェを置く。
マスクメロンがたっぷり入ったパフェは、食後でも食べられそうなぐらい美味しそうだった。
「どうぞ。」
促されて食べてみると、今まで食べたことないぐらい美味しい。
「どうやら、気に入ってくれたようですね。」
甘い物が大好きな僕はつい顔がほころんでしまったようだ。
「はい、美味しいです。」
「良かったです。春人くん、同級生ですから、私に敬語は不要ですよ。」
「でも、東ノ院くんも敬語ですよ。」
「私はこういう風に話す癖が付いているだけです。後輩にも敬語ですから気にしないでください。」
「そう?」
「はい。ついでに下の正孝の方で呼んでくださると嬉しいです。」
「いや、それは…。あの、」
「あ、ほらアイスが溶けてますよ。」
僕は、そう言われて食べる方に集中した。お腹いっぱいだったのに、あまりの美味しさに食べてしまう。
ナオくんとこんな風に横並びになって、いい景色を見ながら食事したら、楽しいだろうなあ。で、わざとくっついちゃったりしてたら、ナオくん慌てるかな。
「何を考えているのですか?可愛いですね。」
東ノ院くんは、コーヒーを飲みながら、ジッと僕を見ていた。
「あ。これ美味しくて。」
僕はごまかす。
「そうですか。また食べに来ましょうね。」
そうだ、きちんと断らないと。
僕は、長いパフェ用のスプーンを置いて、東ノ院くんに向き直る。
「東ノ院くん、お見合いの席に来ておいてこんなこと言うのひどいと思うんだけど、僕、他に好きな人がいるんだ。」
「はい。」
ん?平気そう?ならすんなり断れそうかな。
「だから、その、この先、東ノ院くんとお付き合いとかは出来ないんだ。」
「その想っている方とはお付き合いされているのですか。」
「え?いや…。」
「でしたら、私は構いません。あなたが私のことを好いてくださるよう努力します。」
「でも、僕はその人のことがものすごく好きだから、これからはこうやって会ったりはしないよ。」
「とてもご自身の気持ちに誠実なのですね。でしたら、同じ学園の同級生ですし、友達になってくださいませんか。」
「えっと…。」
「テニス部の他の生徒とはお友達のようですが、私ではダメですか。」
「ダメなわけではないですけど…学園の中の友達ならいいです。」
「まずは、それでいいですよ。」
これってきちんと断ってることになってるのかなあ。でも、学園にも断りを入れるから、これでいいのかな。
「じゃあ、僕そろそろ帰ります。あのおいくらですか?」
「ここは、大丈夫ですよ。懇意にしているホテルですから、すべて父に請求が行くようになっているんです。」
「はぁ。じゃあ、お父様にお礼を伝えておいてください。あと、今日の事すみませんでした、と。」
「春人くんは、何も謝るようなことをしてないですよ。なので、お礼だけ伝えておきます。あと、お一人で帰るのは、いけません。友達として無事に帰る所を見届けさせてください。」
大概、外に出る時は、家族か友達と一緒だから、そう言われてしまうと断る理由が見つからない。
仕方なく、東ノ院くんが呼んだタクシーに一緒に乗り込んで帰ることにした。
「そうだ、夏休みの最後の週の日曜日にホームパーティをやるんです。春人くんも遊びに来ませんか?」
「僕は、沢山人がいる所は苦手だからやめておくよ。」
それに絶対、場違いな気がする。
「そうですか。でもお気持ちが変わるかもしれませんので、後日招待状だけ送らせてくださいね。」
東ノ院くんって物腰柔らかそうでいて、実は押しが強いのかもしれない。
すべて断りきれてない感じがする。
だって、マンションの前でいいって言ってるのに、何だかんだ部屋の前まで送って両親だけでなく、兄さんにまで挨拶して帰って行った。
父さんや母さんだけでなく、兄さんにまで真面目そうで良さそうだなっていう高評価をもらっていく。
なんだかイライラモヤモヤして、僕は部屋に入るとすぐにナオくんに電話する。
「どうした?外出は終わったのか?」
「うん。」
「体調はどうだ?」
「かなり疲れたけど、特に悪い所ないよ。それよりもナオくんに会いたい。」
「素直だな。でも明日はゆっくりした方がいい。あさっての10時に春人の家の前にタクシー付けるから後で、住所送って。」
「うん!」
あさってナオくんに会えると決まると、僕の中にあったイライラやモヤモヤがあっという間に消えていった。
_______
本日は、ちっちゃなお話も後で更新する予定です。
「さきほどのデザートでは物足りなかったでしょう?お勧めの季節のパフェはどうですか?」
「いえ、お腹一杯なので、アイスティだけでいいです。」
って言ったのに、なぜ季節のパフェを頼むの?
「すみません、是非一口食べていただきたくて、頼んでしまいました。全部食べなくて良いので味見してください。」
そう言われたら、少し食べるしかないじゃないか。さっさと用件伝えて帰りたかったのに。
「春人くんは、私のこと全然覚えていなかったんですね。」
気まずい事実を言われて、俯いてしまう。
「いいんです。沢山いるαの中の一人ですから。なのに、今日こうやって会いに来てくれて、とても嬉しいです。」
「そ、それは、母さんがー」
勝手にお見合いを受けたと続けたかったのに、東ノ院くんは、遮って別のことを言う。
「それにしても、」
と言って、東ノ院くんは僕を見て、
「ネックガードしてない春人くんってとても新鮮ですね。」
スッと指先で僕の首を撫でる。
「ひんっ。」
変な声を出してしまい、慌てて口を抑える。
「首、敏感なんですね。他の所もかな。」
「学園の外では、外してるんです。」
「そうですか。でも付けておいた方がいいですよ。こんな風に…」
と言って僕のうなじに息を吹きかけた。
「ひゃっ!」
「可愛いあなたにたまらなくなって、ガブっとしてしまうかもしれませんよ。」
僕は慌ててうなじを手で隠す。
「ふふ、冗談ですよ。きちんと無事に家まで送り届けることを春人くんのご両親にお約束しましたから安心してください。あ、ほら来ましたよ。」
ウェイターがアイスティとコーヒーそしてパフェを持ってきた。
ウェイターは、迷うことなく僕の前にパフェを置く。
マスクメロンがたっぷり入ったパフェは、食後でも食べられそうなぐらい美味しそうだった。
「どうぞ。」
促されて食べてみると、今まで食べたことないぐらい美味しい。
「どうやら、気に入ってくれたようですね。」
甘い物が大好きな僕はつい顔がほころんでしまったようだ。
「はい、美味しいです。」
「良かったです。春人くん、同級生ですから、私に敬語は不要ですよ。」
「でも、東ノ院くんも敬語ですよ。」
「私はこういう風に話す癖が付いているだけです。後輩にも敬語ですから気にしないでください。」
「そう?」
「はい。ついでに下の正孝の方で呼んでくださると嬉しいです。」
「いや、それは…。あの、」
「あ、ほらアイスが溶けてますよ。」
僕は、そう言われて食べる方に集中した。お腹いっぱいだったのに、あまりの美味しさに食べてしまう。
ナオくんとこんな風に横並びになって、いい景色を見ながら食事したら、楽しいだろうなあ。で、わざとくっついちゃったりしてたら、ナオくん慌てるかな。
「何を考えているのですか?可愛いですね。」
東ノ院くんは、コーヒーを飲みながら、ジッと僕を見ていた。
「あ。これ美味しくて。」
僕はごまかす。
「そうですか。また食べに来ましょうね。」
そうだ、きちんと断らないと。
僕は、長いパフェ用のスプーンを置いて、東ノ院くんに向き直る。
「東ノ院くん、お見合いの席に来ておいてこんなこと言うのひどいと思うんだけど、僕、他に好きな人がいるんだ。」
「はい。」
ん?平気そう?ならすんなり断れそうかな。
「だから、その、この先、東ノ院くんとお付き合いとかは出来ないんだ。」
「その想っている方とはお付き合いされているのですか。」
「え?いや…。」
「でしたら、私は構いません。あなたが私のことを好いてくださるよう努力します。」
「でも、僕はその人のことがものすごく好きだから、これからはこうやって会ったりはしないよ。」
「とてもご自身の気持ちに誠実なのですね。でしたら、同じ学園の同級生ですし、友達になってくださいませんか。」
「えっと…。」
「テニス部の他の生徒とはお友達のようですが、私ではダメですか。」
「ダメなわけではないですけど…学園の中の友達ならいいです。」
「まずは、それでいいですよ。」
これってきちんと断ってることになってるのかなあ。でも、学園にも断りを入れるから、これでいいのかな。
「じゃあ、僕そろそろ帰ります。あのおいくらですか?」
「ここは、大丈夫ですよ。懇意にしているホテルですから、すべて父に請求が行くようになっているんです。」
「はぁ。じゃあ、お父様にお礼を伝えておいてください。あと、今日の事すみませんでした、と。」
「春人くんは、何も謝るようなことをしてないですよ。なので、お礼だけ伝えておきます。あと、お一人で帰るのは、いけません。友達として無事に帰る所を見届けさせてください。」
大概、外に出る時は、家族か友達と一緒だから、そう言われてしまうと断る理由が見つからない。
仕方なく、東ノ院くんが呼んだタクシーに一緒に乗り込んで帰ることにした。
「そうだ、夏休みの最後の週の日曜日にホームパーティをやるんです。春人くんも遊びに来ませんか?」
「僕は、沢山人がいる所は苦手だからやめておくよ。」
それに絶対、場違いな気がする。
「そうですか。でもお気持ちが変わるかもしれませんので、後日招待状だけ送らせてくださいね。」
東ノ院くんって物腰柔らかそうでいて、実は押しが強いのかもしれない。
すべて断りきれてない感じがする。
だって、マンションの前でいいって言ってるのに、何だかんだ部屋の前まで送って両親だけでなく、兄さんにまで挨拶して帰って行った。
父さんや母さんだけでなく、兄さんにまで真面目そうで良さそうだなっていう高評価をもらっていく。
なんだかイライラモヤモヤして、僕は部屋に入るとすぐにナオくんに電話する。
「どうした?外出は終わったのか?」
「うん。」
「体調はどうだ?」
「かなり疲れたけど、特に悪い所ないよ。それよりもナオくんに会いたい。」
「素直だな。でも明日はゆっくりした方がいい。あさっての10時に春人の家の前にタクシー付けるから後で、住所送って。」
「うん!」
あさってナオくんに会えると決まると、僕の中にあったイライラやモヤモヤがあっという間に消えていった。
_______
本日は、ちっちゃなお話も後で更新する予定です。
13
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
フェロモンで誘いたいかった
やなぎ怜
BL
学校でしつこい嫌がらせをしてきていたαに追われ、階段から落ちたΩの臣(おみ)。その一件で嫌がらせは明るみに出たし、学校は夏休みに入ったので好奇の目でも見られない。しかし臣の家で昔から同居しているひとつ下のαである大河(たいが)は、気づかなかったことに責任を感じている様子。利き手を骨折してしまった臣の世話を健気に焼く大河を見て、臣はもどかしく思う。互いに親愛以上の感情を抱いている感触はあるが、その関係は停滞している。いっそ発情期がきてしまえば、このもどかしい関係も変わるのだろうか――? そう思う臣だったが……。
※オメガバース。未成年同士の性的表現あり。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる