僕は超絶可愛いオメガだから

ぴの

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1章 1年春〜夏

番外編 春人と外出 side直哉

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 部室の自室で春人に触れた後、テニスコートに戻ると夕凪先輩と部員たちが大騒ぎした。

 どうも春人から少しフェロモンが漏れたらしい。俺のウィンドブレーカーを再び着せて匂いを隠したはずだが、それでも隠しきれなかった。
「城之内、ハルちゃんに何かしたな?」
先輩が詰めてくる。
春人は分かりやすく顔を赤くしたので、フードを目深に被らせ、俺の後ろに隠す。

「ハルくんは、貴方だけのものではないんですよ。」
 同じクラスの東ノ院は、俺が春人を後ろに隠したのが不満らしい。
一番真面目でいて、可愛いオメガや美しいオメガに俺よりも興味無さそうに見えて、やはり春人と関わりたいのか。
 
 本当はここで、春人は俺のものだと言ってしまいたいが、こいつらの耳に入れば、祖父達の耳に入るのも時間の問題だ。
 
 春人とは時間を掛けたいので、面倒なことは避けたい。

「そうだよ、城之内。ハルちゃんのパートナー候補に立候補中なんだから、邪魔するなよー。」
夕凪先輩は、本気らしい。
すると春人が俺の後ろから出てきて先輩の前に立つ。
「あの、先輩、それなんですけど…。」
「なになに??」
「僕、す、好きな人居るのでお断りします!!」
思いっきり頭を下げた。

「で、では!」
 春人は自分の言った言葉がかなり恥ずかしかったらしく、カチコチになって、みんなの前から去っていく。
 俺は亮一に目配せする。
 亮一は、『はいはい、分かってるよ。』という顔をして、春人が無事に寮まで辿り着けるよう後を追った。

「えー!!ハルちゃん好きな人いたの!?」
「いつの間に出会ったんでしょうね。」
部員たちが春人の一言でまた騒ぎ出す。

「俺、帰ります。」
自分のラケットを回収し戻ろうとすると、
「ちょっと待て。」
と夕凪先輩が肩を抱いてくる。
「ハルちゃんの好きなヤツってお前か?」
「そんな人の心の中まで分かりませんよ。」
「ってか、今日お前に会いに来たのって告白しに来たんじゃないのか?」
「いいえ。この間ヒートの時助けたので、お礼を言いに来ただけです。」
「それにしては、長かったし、ん?お前シャワー浴びたな。」
あー面倒な人だ。

俺は小声で先輩の耳元で
「先輩が欲しがってた俺が手掛けた会社の株の件ですけど、今先輩が勘づいている事を今後も黙ってくれてたら、少し売ってもいいですよ。」
悪魔のように囁く。
 まだ会社は成長する余地があったので、売り時ではないが、まあ、少しなら問題ないだろ。
 他にやりたいことがあるので、成長しきったと判断したら全株売るつもりだ。その売り先候補を夕凪先輩にしておくのも悪くない。
「本当か!?わかった。もう干渉しない。」

 チャラいが先輩も優秀なαの家系の一人。ビジネスの方を優先した。


*****
 週末、俺は渋谷区の自宅に帰らず、港区にある自社オフィスにいることが多い。
 たまに遠出もするがたいがい一人で過ごしている。
 
「わあ、すごい車!!かっこいい!運転手さんもいるんだ。」
 春人を誘って出かけようと自分専用の車を学園まで呼んだ。免許を取れる年齢までは運転手付きでも仕方がない。

「ほら、乗りな。」
「うん、お邪魔しまーす。あ、運転手さん、こんにちは。今日は、よろしくお願いします!」
立ってドアを抑える運転手に、元気よく挨拶する春人。
運転手の光宗は、30代のβ、妻子持ち。
城之内の人間とは違う一般的な感覚を持っているが、それでも春人の挨拶には驚いた顔をした。
それはそうだろう。城之内の人間は運転手やその他家に仕える人間は、己の手足の代わりとしか思っていない。
だから、『ご苦労。』ぐらいは言われてもこんなに元気に面と向かって挨拶されるなんて、初めてなのだろう。
「はい。和倉様が快適に過ごされるよう尽します。」
「え!?僕の名前知っているのですか?」
「はい、直哉様から聞いて存じております。」
「そうなんですね。あなたの名前は?」
またまた光宗は驚いている。
色んな客を乗せたことがあるが、運転手の名前を聞く人はいない。
「あ、はい。光宗と申します。」
「へえ、ミツムネさん。かっこいい名前。」
「恐れ入ります。」
「なんか、年上の方なのに僕に敬語って変な感じ。普通に喋ってくれていいですよ。」
「いえ、それは…。」
俺は助け舟を出す。
「春人、それぐらいにしてやれ。」
「え?僕変なこと言った?」
「いや、それよりも早く出かけよう。」
「うん。」
後部座席に乗り込みようやく出発した。

俺は、外出先に学園から30分程で行ける湖を選んだ。
都心は人が多くて、発情を経験した春人を連れて行く気にはなれなかった。
春人に事前に提案すると、目を輝かせて賛成してくれた。

 土曜日だったが、観光シーズンを外した梅雨時期のせいか湖は人もまばらだった。

「わあ、綺麗な湖!あっ、魚が見える!」
 純粋にはしゃぐ春人を見て安心する。
 もしかしたら、もっと豪華な場所を期待してるのかもと少なからず思っていたからだ。
 
「ねえ、ほら、僕が言った通り、スワンボートがあるよ。」
「乗るか?」
「いいの!?ナオくん、こういうの嫌がるかと思った。」
「春人が乗りたいのなら嫌じゃない。春人以外と乗るなら死んでも嫌だけどな。」
「何その口説き文句。」
「いや、口説いてるつもりはないが…。」
「じゃあ、素なの!?」
「ん?普通に話してるだけだ。」
「はぁ、僕、その内骨抜きにされそう。」
「また、変なこと言って。面白いやつ。」
ふっと笑うと春人の頬がほんのり赤くなる。
どうも俺の笑顔に弱いらしい。

 スワンボートを管理しているオジサンに乗りたいと告げると、今日はサービスデーと言われ無料で乗せてもらえた。

「えー無料とかあるの?すごい、ちょうど良い時に来たね!」

春人は嬉しそうにスワンボートに乗り込む。
「ナオくん、足長いからキツそうだね。僕だとちょうどいいや。」
 スワンボートは見た目よりもっと狭く、確かにキツい。それに車の中にいた時より、春人に密着してしまう。
 春人の爽やかだが、甘い匂いが鼻を掠める。
 欲情してしまいそうだ。
 けど、春人はそんな俺になんて構うことなく、初めて乗ったスワンボートを漕ぐことに夢中だ。
 
「結構遠くまで来れたね。」
 春人が漕ぐのに疲れて一息ついた。
 すると、俺との距離が近いことを今頃気づいたらしく、分かりやすくモジモジし始めた。

 そうなると、ちょっと意地悪したくなる。
「春人、髪が乱れてる。」
 俺は春人の方に寄って髪を触る。
「あ、ありがとう。」
「あれ?なかなか整わないなあ。」
 俺は髪を触り続けた。
「僕、癖っ毛だから…。だから、もういいよ。」
 恥ずかしいからなのか、俺の手を跳ね除けた。
俺は、跳ね除けられたことにわざと傷ついた顔をする。
「あ…。あのね、ナオくんが嫌とかじゃなくて、そのむしろ触って欲しいというか何というか…けど触られると何か胸がドキドキするっていうか…」
「クックック…。」
必死な春人が可愛すぎて笑ってしまう。
「ちょっと!何で笑うの!?」
 春人の頬がぷっと膨れる。
「ごめん、恥ずかしがってるって分かってた。」
「もう!ひどいや!」
春人は俺の片腕をポコポコ殴る。
「許せ。可愛いのがいけない。」
俺は殴る春人の手を取ってから唇にキスをする。
すぐに甘い吐息が聞こえる。
「んふっ…。」
まだキスに慣れてないのか、息がうまく吸えない春人はすぐに夢中になる。
「はぁ…んあっっ…。」
この甘い吐息に、俺の中心にあるモノは反応してしまう。
続けたいところだが、ここではどうにもならない。仕方なくキスを止める。

 春人の顔は真っ赤だ。それにポーッとしている。
「そろそろ戻るか?」
「うん…。」
 春人のペダルを漕ぐ動きは緩慢になる。
仕方がないので、俺があちこちに足をぶつけながら、必死に漕いだ。
後で、青あざになるにちがいないが、自業自得なのだろうな。

 その後は、お昼を食べに車を走らせ、洋館風のこじんまりとした一軒家の前で止まってもらった。

「ねえ、ここ看板とか出てないけど、レストランなの?」
「そう隠れ屋なんだよ。」
「へえ、さすがナオくんだね。普通の人が予約できないところも予約しちゃうんだ。」
「たまたまだよ。」

 さすが一流シェフのコース料理だ。一人だとコース料理なんて食べないから久しぶりに食べる味は格別だった。
「こういうおしゃれな料理って食べたことなかったけど、今まで食べた中で一番美味しかった。」
 春人も満足してくれたようだ。
 シェフとスタッフにお礼を言って出ると、春人が車の中で
「お会計は?」
と聞いてきた。
「あー、今日はサービスデーかな?」

「えっ?さすがにそれはないよ。そこそこの値段するってことぐらい庶民の僕でも分かるよ。」
「ん?まあ先に払っておいたよ。」
「え?でもコースの内容とかレストランで決めたし、追加のドリンクも頼んだよね。それなのに先に払えるの?」
 なぜ、春人はこんなところを追求してくるんだ?
「ナオくん、なんか隠してない?」
「いや、何も。」
俺は得意の無表情で答える。
「よく考えたら、スワンボートも僕ら二人のためだけに営業してなかった?あの湖って近くの人が散歩しに来てる程度しか人居なかったし、それにレストランだって、僕たちしかいなかったし、レジとかそういうのなくて、普通のお家みたいだったよ。」
「考えすぎじゃないか?」
「僕が世間知らずのΩだって思ってる?」
「いや、そんな風には思わない。」
「だったら、教えてよ。今日はどういうこと?
光宗さんは、知ってるんですよね、今日のカラクリ。」
「はい、あ、いえ。」
光宗、突然名前を呼ばれて、動揺してカラクリがあることをバラしてるじゃないか。
「ほら、ナオくん、正直者の光宗さんを困らせちゃダメだ。教えて!!」
 ジッと俺を睨みつける春人。目が大きいせいか睨んでる顔も可愛い。

「仕方ないなあ。スワンボートは夏休み中とか人が来る時しか営業してないっていうから、経営者に頼んで特別に今日営業してもらったんだ。」
「え!?それって、湖行くって話になった時僕が一度スワンボートに乗ってみたいって言ったからだよね。」
「うん、まあ。」
「じゃあ、レストランは?」
「あの辺りに、きちんとしたレストランがなかったから、一軒家を借りて東京のシェフとスタッフ呼んだ。」
「何その桁違いな行動!?こんなこと言うべきか分からないけど、高校生が払えるような内容じゃないよね?」
「まあ、普通の高校生ならな。」
「親御さんからもらったお小遣いなら大事に使わなきゃ。僕はね、外行こうって誘われた時、一番に思ったことは、土曜日なのに、一日ナオくんと一緒にいられるんだってこと。だから、僕のためにここまでしなくていいんだよ。」
 たまらなく可愛いことを言う春人に俺は白状した。
「今日使った金は親のじゃない。俺が自分で立ち上げた会社で稼いだ金だ。だから気にしなくていい。それに金を稼いでも次の事業の為にしか使い途ないから、今日春人がすごく喜んでくれて、今までで一番有意義な使い方をしたと思う。というか、俺がすごく楽しかった。春人と楽しく過ごしたい自分のために使ったんだ。それじゃあ、ダメか?」
 春人はふーっとため息をつく。
「ナオくんって、僕の想像を超えるすごい人なんだね。どこまで甘えていいか分からなくなりそう。もう言わなくても分かると思うけど、僕は今も将来も働いたりできなー「言わなくていい。」
春人が言おうとしていることを遮った。春人はオメガらしいオメガ故に、体力もないし、正直勉強もできない。ヒートもあるから、働くのは難しい。だから同じ物を俺に返せないと言いたいのだろう。
「どこまでも甘えていい。その代わり俺は春人自身に甘えるから。」
「僕は普通の高校生らしいのでいいからね。」
「分かってる。俺は俺の為にするだけだから。」
「うん、ほんとにそうしてよ。」
 分かった。とは言ったけど、この後、休止中のロープウェイを事前点検させた上に、稼働させたって知ったら、春人は怒るだろうか。
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