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1章 1年春〜夏
僕の可愛さを認識されてました
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今日はリョウくんが見当たらない。ということは、図書館かな。
リョウくんとナオくんは、約束してる訳ではないらしいが、図書館で会った時は一緒に勉強しているらしい。
僕には到底理解できない高度な学問なので、あまり二人が勉強している所に入って行ってしまうと、邪魔になるだろう。それでもたまーに参加させてもらう。
そんな時は、僕は黙って二人のそばにいる。
ナオくんの端正な横顔の近くでの勉強はほんの少し緊張する。
今日も二人はいつもの勉強スペースにいた。
「僕もいい?」
宿題を持って声をかける。
ナオくんはおそらく経営学とかそういうの?を勉強してるっぽい。
英語で書いてあるから僕には、ほんとの所は分からないけど、前にそんなこと言ってたから。
二人は目でどうぞと示してくれる。
いつも通りリョウくんの前に、そしてナオくんの横に座った。
本をめくる音やペンがノートを引っ掻く音だけが聞こえる。
何も特別なことはないけど、ナオくんの横にいるだけで僕は幸せな気分だった。
ほんとにナオくんって僕にとっては不思議な存在だ。
僕を小学生扱いして笑った時以外は、すごくクールで滅多に表情を変えることないし、何か冗談を言うこともない。
でも僕がたわいもない話をすると、ほんの少しだけ口の端を上げて『そうだな。』とか『何だそれ。』とか相槌打ってくれたり、時にはナオくんの考えを伝えてくれたりする。
それだけで、僕は楽しくなれる。
多分、たっくんとか一部の仲の良い友達とか家族とかは別にして、みんな僕の話なんかいつも聞いてなくて、僕の『顔』と話をしてる感じがした。僕が何か話せば、無条件にニコニコしてくれて、全肯定だったのだ。
だから、会話しているようでしてなかったような気がする。
そして、僕とほんとに『会話』しようとしてくれてるのは、αの中ではナオくんだけな気がするのだ。
そんな穏やかな時間を過ごしていると、
「あーハルちゃんいた!!」
ネクタイの色から察するに3年のαの生徒が3人で僕の方にやって来た。
「ハルちゃんが図書館に入って行くの見たっていう奴がいたから探してたんだ。」
図書館に似つかわしくない声量。勉強している二人に申し訳なくてチラッと見ると、無表情に徹していた。
きっと、二人とも面倒だと思ってるんだ。
「あ、あの何か御用ですか?」
僕は小さな声で問いかける。
「ん?御用っていうか、ハルちゃんと遊びたくって。これから遊びに行かない?」
「でも僕、宿題やらないといけないから、すみません。」
「そんなの俺らが代わりにチャチャっとやってやるよ。」
「いえ、自分でやらないと意味ないので。」
「えー別に大した内容じゃないし、自分でやらなくたって大丈夫だって。」
僕には結構難しいのに…。
「ってかそこのSSくんはやってあげてないんだ。」
ナオくんのこと?
「ハルちゃんは入学したばっかりで、あんまり知らないだろうけど、αに気に入られたΩの生徒は、何でもαにやらせちゃってるよ。」
「そうそう!だから遠慮しないで。ハルちゃんの為なら誰でも奴隷になっちゃうよ。」
きっとΩの生徒の課題とか困難だと感じていることって、αの生徒にとっては、片目どころか両目瞑ってもできることなのだろう。
「あの、大丈夫です。」
それでも、今度ヘリに乗せてあげるよーとか有名ホテルのビュッフェを貸切にしてあげるよーとか色んなエサを撒いて誘ってくるので、ナオくんにΩは人に、ねだったり、頼ってばかりの存在だって思って欲しくないのもあって、僕ははっきり言うことにした。
「もしその宿題をやってもらったりなんかしたら、奴隷になるのは、僕の方ですよね。そんなのぜっっったいお断りです。それに僕にとって自分で宿題をこなすことは大事なことなんです。」
可愛いげのない発言をする僕に面食らったようで一瞬三人は絶句する。
その後に怒りの表情を露わにした。
Ωに、しかもΩの中でもこんな弱そうな僕に言われたせいだろう。
「少し可愛いからってαに向かって偉そうにするなよ。」
「Ωなんて媚びてりゃいいんだよ。」
「どうせ顔だけなんだから。」
それぞれ捨て台詞を吐いてさっさと去って行く。
「あいつら!!」
リョウくんは追いかけて殴りそうな勢いで怒っている。
「リョウくん、いいから!」
リョウくんが立ち上がるのを向いの席から両手を広げて止める。
「ごめん!僕のせいでリョウくんまで嫌な思いさせたね。」
「ハルのせいじゃない!あいつらがアホなだけだ!!いくらエリート教育施しても差別意識が無くならないバカもいるんだ。」
僕は、ナオくんの前で侮られたのが恥ずかしいやら情けないやらで、俯いてるとナオくんが隣から手を伸ばして頭をポンポンと軽く慰めるように叩いてくれた。
「全部自分で言い返して偉かったな。何かあれば俺も威嚇でも何でもして参戦するつもりだったけど、全く必要なかった。」
そうして今度は背中をポンポンとしてくれた。
「αもΩも関係なく、最低な人間はどう言う訳か一定程度存在するもんだ。」
「それに、」
とナオくんは珍しく饒舌に続ける。
「あんなこと最後に言ったのは、春人に相手にしてもらいたくて仕方がなかったのに、あっさり断られた腹いせだろうな。あいつら、春人を前にしてかなり舞い上がっているようだったからな。」
「な、なななななに言ってんの!?」
「あの三人、春人に会えて興奮してただろ。まあ、大概のαは春人を前にするとあんな風になるみたいだけどな。」
「ぶはっ!」
リョウくんが吹き出すという感じで笑う。
「直哉、そんな風にハルと周りの奴らのこと見てたんか」
「春人がαの前に現れるだけでいつも騒ぎになるんだから、誰でもそう思うだろ。まあ、春人は、庇護欲を非常に刺激される出立ちではあるからな。」
「ナ、ナオくん!!!冷静に恥ずかしいこと言わないで!」
けど、リョウくんが先を促す。
「ってことは、直哉もハルのこと可愛いって思ってんの?」
「ああ。今まで会った人間の中で一番可愛い。」
うそうそうそ!ナオくんにそんな風に思われてたなんて!!自分は可愛いって知ってたよ。でもナオくんにそう認識してされてたのは知らなかったよ。
僕は真っ赤になっただろう顔をして、オタオタするしかなかった。
リョウくんとナオくんは、約束してる訳ではないらしいが、図書館で会った時は一緒に勉強しているらしい。
僕には到底理解できない高度な学問なので、あまり二人が勉強している所に入って行ってしまうと、邪魔になるだろう。それでもたまーに参加させてもらう。
そんな時は、僕は黙って二人のそばにいる。
ナオくんの端正な横顔の近くでの勉強はほんの少し緊張する。
今日も二人はいつもの勉強スペースにいた。
「僕もいい?」
宿題を持って声をかける。
ナオくんはおそらく経営学とかそういうの?を勉強してるっぽい。
英語で書いてあるから僕には、ほんとの所は分からないけど、前にそんなこと言ってたから。
二人は目でどうぞと示してくれる。
いつも通りリョウくんの前に、そしてナオくんの横に座った。
本をめくる音やペンがノートを引っ掻く音だけが聞こえる。
何も特別なことはないけど、ナオくんの横にいるだけで僕は幸せな気分だった。
ほんとにナオくんって僕にとっては不思議な存在だ。
僕を小学生扱いして笑った時以外は、すごくクールで滅多に表情を変えることないし、何か冗談を言うこともない。
でも僕がたわいもない話をすると、ほんの少しだけ口の端を上げて『そうだな。』とか『何だそれ。』とか相槌打ってくれたり、時にはナオくんの考えを伝えてくれたりする。
それだけで、僕は楽しくなれる。
多分、たっくんとか一部の仲の良い友達とか家族とかは別にして、みんな僕の話なんかいつも聞いてなくて、僕の『顔』と話をしてる感じがした。僕が何か話せば、無条件にニコニコしてくれて、全肯定だったのだ。
だから、会話しているようでしてなかったような気がする。
そして、僕とほんとに『会話』しようとしてくれてるのは、αの中ではナオくんだけな気がするのだ。
そんな穏やかな時間を過ごしていると、
「あーハルちゃんいた!!」
ネクタイの色から察するに3年のαの生徒が3人で僕の方にやって来た。
「ハルちゃんが図書館に入って行くの見たっていう奴がいたから探してたんだ。」
図書館に似つかわしくない声量。勉強している二人に申し訳なくてチラッと見ると、無表情に徹していた。
きっと、二人とも面倒だと思ってるんだ。
「あ、あの何か御用ですか?」
僕は小さな声で問いかける。
「ん?御用っていうか、ハルちゃんと遊びたくって。これから遊びに行かない?」
「でも僕、宿題やらないといけないから、すみません。」
「そんなの俺らが代わりにチャチャっとやってやるよ。」
「いえ、自分でやらないと意味ないので。」
「えー別に大した内容じゃないし、自分でやらなくたって大丈夫だって。」
僕には結構難しいのに…。
「ってかそこのSSくんはやってあげてないんだ。」
ナオくんのこと?
「ハルちゃんは入学したばっかりで、あんまり知らないだろうけど、αに気に入られたΩの生徒は、何でもαにやらせちゃってるよ。」
「そうそう!だから遠慮しないで。ハルちゃんの為なら誰でも奴隷になっちゃうよ。」
きっとΩの生徒の課題とか困難だと感じていることって、αの生徒にとっては、片目どころか両目瞑ってもできることなのだろう。
「あの、大丈夫です。」
それでも、今度ヘリに乗せてあげるよーとか有名ホテルのビュッフェを貸切にしてあげるよーとか色んなエサを撒いて誘ってくるので、ナオくんにΩは人に、ねだったり、頼ってばかりの存在だって思って欲しくないのもあって、僕ははっきり言うことにした。
「もしその宿題をやってもらったりなんかしたら、奴隷になるのは、僕の方ですよね。そんなのぜっっったいお断りです。それに僕にとって自分で宿題をこなすことは大事なことなんです。」
可愛いげのない発言をする僕に面食らったようで一瞬三人は絶句する。
その後に怒りの表情を露わにした。
Ωに、しかもΩの中でもこんな弱そうな僕に言われたせいだろう。
「少し可愛いからってαに向かって偉そうにするなよ。」
「Ωなんて媚びてりゃいいんだよ。」
「どうせ顔だけなんだから。」
それぞれ捨て台詞を吐いてさっさと去って行く。
「あいつら!!」
リョウくんは追いかけて殴りそうな勢いで怒っている。
「リョウくん、いいから!」
リョウくんが立ち上がるのを向いの席から両手を広げて止める。
「ごめん!僕のせいでリョウくんまで嫌な思いさせたね。」
「ハルのせいじゃない!あいつらがアホなだけだ!!いくらエリート教育施しても差別意識が無くならないバカもいるんだ。」
僕は、ナオくんの前で侮られたのが恥ずかしいやら情けないやらで、俯いてるとナオくんが隣から手を伸ばして頭をポンポンと軽く慰めるように叩いてくれた。
「全部自分で言い返して偉かったな。何かあれば俺も威嚇でも何でもして参戦するつもりだったけど、全く必要なかった。」
そうして今度は背中をポンポンとしてくれた。
「αもΩも関係なく、最低な人間はどう言う訳か一定程度存在するもんだ。」
「それに、」
とナオくんは珍しく饒舌に続ける。
「あんなこと最後に言ったのは、春人に相手にしてもらいたくて仕方がなかったのに、あっさり断られた腹いせだろうな。あいつら、春人を前にしてかなり舞い上がっているようだったからな。」
「な、なななななに言ってんの!?」
「あの三人、春人に会えて興奮してただろ。まあ、大概のαは春人を前にするとあんな風になるみたいだけどな。」
「ぶはっ!」
リョウくんが吹き出すという感じで笑う。
「直哉、そんな風にハルと周りの奴らのこと見てたんか」
「春人がαの前に現れるだけでいつも騒ぎになるんだから、誰でもそう思うだろ。まあ、春人は、庇護欲を非常に刺激される出立ちではあるからな。」
「ナ、ナオくん!!!冷静に恥ずかしいこと言わないで!」
けど、リョウくんが先を促す。
「ってことは、直哉もハルのこと可愛いって思ってんの?」
「ああ。今まで会った人間の中で一番可愛い。」
うそうそうそ!ナオくんにそんな風に思われてたなんて!!自分は可愛いって知ってたよ。でもナオくんにそう認識してされてたのは知らなかったよ。
僕は真っ赤になっただろう顔をして、オタオタするしかなかった。
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