上 下
70 / 93

70.何度目かの朝

しおりを挟む
何かをギュッと握った

その感触で目が覚めた

「あ……」

私の目の先には、ギュッと握った手があった

「ん?目が覚めたか?」

頭の上から声が聞こえる
カイリ殿下の腕に包まれながら私は目を覚ました

夢は記憶
私の封印されていた過去
今まで何も知らずに過ごしていたのは幸せだったのかもしれない

カイリ殿下の指が、私の髪をサラリと梳く

「何か見たか?」

私はコクリと頷いた

カイリ殿下の腕の中は心地良い
まるで満月の泉に体を浮かべているような
落ち着く空間だった

少しすると、カイリ殿下は体を起こした

あ………

離れてしまう体に寂しさを覚えて、起き上がって殿下をボーっと見つめる

カイリ殿下はベッドに背をもたれて、両手を軽く広げて微笑んだ

その手に誘われるように、私は殿下の胸元にギュッとしがみついて、顔を埋め、心のままに甘えた

私がその腕の中で癒されまくってると

「みさき。どこまで覚えている?」

と聞いてきた

どこまで?
どこまでとは?
どこからの記憶を辿るのでしょうか……

「うーーん………」

私がモンモンと考えていると

「いや……。覚えてないなら、いい。」
と、殿下は口元に手を当てて目線を逸らしながら意味深な言葉を残した

「昨晩だいぶ苦しそうだったのでな。何か辛い記憶を辿ったと思うんだが、大丈夫か?」

夢に見たことは、そうそう。こんなことあったあった。という「思い出した」という感覚に近かった。

私の感情どこいっちゃてるんだろ……
平然と自分を見下ろしている情景が思い浮かんだ
まるで他人のことのように
心と体が分離しているような違和感が残っている

自分のことが分からなくなる

もしかしたら、知らない方が良かったのかもしれない
何も知らないで、のほほんと毎日を送って、言われるがままにお仕事して、ユミさんにお小言を貰いながら、エリちゃんと日々を過ごす
変わり映えのない穏やかな日常を毎日繰り返す

うーん……でも、それでほんとにいいのかな

知らない不安と、知ってしまう恐怖
どちらも怖い気がする


「私はもう行かなくてはいけないが、1人で大丈夫か?」

カイリ殿下の腕の中で癒されまくった私は、はっ!と我に返った

「はっ!はいっ!」

すると、殿下は、私を自身から引き剥がすと、そのまま首元に顔を近づける
カイリ殿下の吐息がかかる

「何かあったら私を呼べ」
と耳元で囁くと、首筋にチュッとキスをした

不意に触れられたその感触に、ピクっと体が反応する

「あ……」
私は触れられた首筋に無意識に手を触れると、一欠片の記憶がサッと頭をよぎり
恥ずかしさのあまり、顔を伏せた

カイリ殿下は私の頭をポンポンと撫で、朝廷へ向けて部屋を去っていった
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

拝啓 私のことが大嫌いな旦那様。あなたがほんとうに愛する私の双子の姉との仲を取り持ちますので、もう私とは離縁してください

ぽんた
恋愛
ミカは、夫を心から愛している。しかし、夫はミカを嫌っている。そして、彼のほんとうに愛する人はミカの双子の姉。彼女は、夫のしあわせを願っている。それゆえ、彼女は誓う。夫に離縁してもらい、夫がほんとうに愛している双子の姉と結婚してしあわせになってもらいたい、と。そして、ついにその機会がやってきた。 ※ハッピーエンド確約。タイトル通りです。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】魅了が解けたあと。

恋愛
国を魔物から救った英雄。 元平民だった彼は、聖女の王女とその仲間と共に国を、民を守った。 その後、苦楽を共にした英雄と聖女は共に惹かれあい真実の愛を紡ぐ。 あれから何十年___。 仲睦まじくおしどり夫婦と言われていたが、 とうとう聖女が病で倒れてしまう。 そんな彼女をいつまも隣で支え最後まで手を握り続けた英雄。 彼女が永遠の眠りへとついた時、彼は叫声と共に表情を無くした。 それは彼女を亡くした虚しさからだったのか、それとも・・・・・ ※すべての物語が都合よく魅了が暴かれるとは限らない。そんなお話。 ______________________ 少し回りくどいかも。 でも私には必要な回りくどさなので最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

後悔はなんだった?

木嶋うめ香
恋愛
目が覚めたら私は、妙な懐かしさを感じる部屋にいた。 「お嬢様、目を覚まされたのですねっ!」 怠い体を起こそうとしたのに力が上手く入らない。 何とか顔を動かそうとした瞬間、大きな声が部屋に響いた。 お嬢様? 私がそう呼ばれていたのは、遥か昔の筈。 結婚前、スフィール侯爵令嬢と呼ばれていた頃だ。 私はスフィール侯爵の長女として生まれ、亡くなった兄の代わりに婿をとりスフィール侯爵夫人となった。 その筈なのにどうしてあなたは私をお嬢様と呼ぶの? 疑問に感じながら、声の主を見ればそれは記憶よりもだいぶ若い侍女だった。 主人公三歳から始まりますので、恋愛話になるまで少し時間があります。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...