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第3章 『エルフ国編②』

第11話 「魔王様、再度世界樹へ③」

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 その後もトレント・ロードとの遭遇戦は後を絶たず、白エルフ部隊はその数を減らしていく。
 私たちとしても無傷とはいかず、さすがに消耗を隠せなくなってきていた。
 かといってここまで来て引き返す選択肢もない以上、私たちは突き進む。


「あれは……魔獣、だよな……?」


 私の訝しむ視線の先は、大広間となっていた。
 前回の折り、ロードに不意打ちを受けたあの場所である。

 現在、その場にロードの姿こそなかったものの、代わりに”あるもの”が立ちふさがっていた。

 かつて魔獣と化した黒エルフを再現したかのような樹木魔獣。
 ただし、人の上半身を模した部分は完全に樹木だったが。
 複製とでもいうべき魔獣が、大広間の中央付近に佇んでいた。


「あいつは……ロードクラスと見ていいのか? それとも上級か?」
「ロード以上とは思いたくないが……まあ、戦ってみればわかるじゃろうて」
「呑気なことを。あれが以前のあいつと同じだったら、魔法の効果が薄れるんだぞ?」
「確かにのう、あの時は参ったわい」
「なんだ? あの魔獣に見覚えがあるのか?」


 私とドラギアのやり取りに、ドーエンスが問いかけてくる。
 私はひとつ頷いた。


「以前に話した思うが、犯人の黒エルフがああいう姿の魔獣に変貌したらしい。私はすでに変貌した後の姿しか見ていないから、変貌する瞬間のことはわからないがな」
「儂は、いまでも鮮明に覚えておるよ。”核”をかじった瞬間、魔獣へと姿を変えたんじゃ。人間が魔獣に変貌する様など、初めて見たのう」
「……なるほど」


 説明を受けたドーエンスは、樹木で形成されている人型の顔を凝視する。
 もしかすると見覚えがあるのかもしれなかったが……彼は何も発言することはなかった。
 デモナに関しては、まったく知らないのか、まるで無反応である。


「以前のあの魔獣だったら、人間部分である頭部が弱点だったが……」
「樹木の以上、弱点には見えんの」
「だよな……厄介だな」
「ではどうする? 俺や白エルフ王は魔導士だ。魔法の効果が薄いのであれば、俺たち魔導士はそれほど役には立たんぞ?」
「まあ、まだあいつが魔法耐性が高いとは限らないしな。戦ってみてあいつの特性を把握してから、どうするか決めよう」


 私の言葉に、ふむ、と頷いたドラギアが、白エルフ部隊へと指示を出す。


「お前さんらは下手に前線に出ず、弓や魔法にて援護を頼む」


 彼女の指示は妥当といえた。
 白エルフ部隊の面々は精鋭揃いとはいえ、これまでの道中によって疲弊しているために、強敵が相手では、下手に前線に出られるとかえって足手まといになってしまうからだ。

 自分たちの状態がわからないほど無能ではないようで、剣と盾で装備していた前衛の白エルフたちが武器を弓矢へと持ち帰る。


「攻めは私とデモナ、守りはレイ、ドラギアとドーエンスは援護射撃、アテナは状況に応じて援護を頼む」


 私の指示に頷く面々。

 こうして私たちの方針が決まったことで、戦闘が開始される──



 ※ ※ ※



『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 咆哮までそっくり真似ている魔獣の全身から、無数の枝が伸びてくる。


「まずは、確かめてみようかの!」


 先手必勝とばかりに、ドラギアが火炎球を解き放った。
 伸びてくる枝の群れと真っ向から衝突し、爆発が巻き起こる。
 しかし一瞬の遅滞なく、無数の枝が爆煙を突き抜けてきた。


「やはり、魔法耐性が高いようじゃのう」
「ならば魔導士の俺たちは、援護に徹するしかなさそうだな」


 ドーエンスが魔法陣を展開。そこから放たれる氷の矢玉が枝の群れを迎え撃ち、そのことで魔獣からの攻撃に遅延が生じた隙をつき、私とデモナが疾駆する。

 白エルフたちの援護射撃を背に、魔獣へと肉迫した私とデモナがその身体を左右から切り裂いていき、そんな私たちへと新たに飛び出してきた枝が襲い掛かってくるも、影から飛びだした黒の手がその動きを止めていた。

 同時に踏み込んだ私とデモナが枝を両断しざまに、さらに魔獣の身体を切り裂き、すかさず距離をとり。
 入れ替わりで飛来してきた炎の槍と氷の槍が魔獣の身体にて炸裂。
 とはいえ、やはり魔法の効果は薄いようで、大したダメージは与えらない様子。


『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 吼えた魔獣が、撃ち込まれてくる攻撃魔法を無視する形で、近距離にいる私とデモナへと猛威を振るって来た。

 その身体と床下から飛び出して来る枝の群れ。

 デモナは体捌きと魔剣からの氷撃で受け捌き、私も体捌きと蒼刃で応じるものの──戦闘力ではデモナに劣る私では、その全てを捌くことはできなかった。
 捌き切れなかった枝の一本が、私の身体へと強襲してくる。
 しかしそこへレイが飛び込んできており、左の盾で受け止めるや、その枝を右手に持つ剣で切り払っていた。


「すまない、助かった」
「あまりご無理はなさらないでくださいね」


 レイがデモナにではなく私へと来たのは、単にデモナを嫌っているからか、あるいは私が弱体化していることを心配してか。


(両方かもしれないな)


 自身の力不足を情けなく思う一方で、戦闘中にいつまでも自嘲するほど私は愚かではなく。
 牽制で下級魔法を放ちざまに、身体中に弓矢が突き刺さる魔獣へと飛び掛かる。
 ──しかし。


「ちいっ」


 床下から飛び出してきた枝により中断・回避のために横手へと飛び退く。

 床下からの攻撃というのはなかなかに厄介であり、援護射撃をする白エルフ部隊にも少なからずの被害を与えていた。
 距離が離れている白エルフ部隊へも届くことから、どうやらこの魔獣は、以前の黒エルフよりも射程が長いようである。


「むう!?」
「く……っ」


 離れた位置から攻撃魔法を叩き込むドラギアとドーエンスにも床下から枝が飛び出しており、ふたりは攻撃を中断して慌てて回避行動に。
 とはいえ、魔導士である以上、体捌きに関してはキレがなく。
 回避が遅れてしまったふたりへと、枝の群れが襲い掛かる。
 しかし次の瞬間、ふたりの影から飛び出してきた黒の手が、それらを受け止めていた。
 見れば、アテナの影から伸びている影が、ふたりの影に連結されていた。


「すまぬ!」
「助かった!」
「いえ、お気になさらず」


 淡々とした様子で応じたアテナは、今度は私へと強襲してくる枝を影の手で拘束する。
 その枝を両断しざまに魔獣へと肉迫した私は、デモナへと攻撃していた間隙をついて、魔獣の人型頭部を切り飛ばしていた。


「これでどうだ……?」


『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


「ちい……っ」


 一瞬で新たな頭部が生えてしまい、反撃とばかりに繰り出されてきた枝の群れを前に、私は後退するしかなかった。
 すかさずレイが防御に回ってくれていたので、どうにか私は離脱に成功する。


「……鬱陶しいな」


 呟いたデモナが、魔剣を床に突き立てた。
 その瞬間、床一面が氷に閉ざされ、今まで床下から好き勝手に奇襲してきていた枝の群れが飛び出さなくなる。
 魔剣からの冷気が床下に浸透して氷の床と化したことで、床下に伸びていた枝が氷漬けとなっており、本体の根から新たに生まれる枝の群れも、分厚い氷の層は突き抜けられないようである。


「そんな手段があるなら、もっと早く使ってくれ」
「これをすると魔剣が使えなくなる」
「なるほど」


 一種の氷の結界は、魔剣を常に突き立てていないと効果を持続できないらしい。
 尚且つ、氷の表面はつるつるではなくざらついていることから移動には何ら支障はないようで、魔剣を使えなくなるデメリットはあれど、この局面においては有効打と言えるだろう。

 デモナは帯剣するもうひとつの剣を抜き放つが、どうやら魔剣は一本しか持っていなかったようで、その剣はごく普通の鋼だった。


「魔剣じゃないようだが……大丈夫なのか?」
「切れ味は落ちるだろうが……問題ない」


 今更ながら、デモナは私に対してはタメ口であった。
 別にそんな程度のことで目くじらを立てる私ではないが……まあ、年下にタメ口をされるというのは、なんとなく面白くはないと思っても仕方ないだろう。


(面倒くさいから、いちいち指摘しないけどな)


 どのみち私に反感を抱いている以上、彼は私の指摘など聞く耳もたないだろう。
 後でドーエンスに注意してもらうか、と思う一方では、魔獣の全身へと弓矢と様々な攻撃魔法が炸裂していた。



 ※ ※ ※



『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 吼える魔獣だったが、床下からの奇襲をできなくなったことに苛立ちを感じている様子だった。

 攻撃手段が全身から伸ばす枝だけとなったことで、戦局は私たちが優勢となる。

 白と黒の王、そして白エルフたちの援護射撃を背景に私とデモナが近接攻撃をしかけ、主に私に対してだけレイが防御を固めてくれており、さらには状況に応じてアテナが的確に影術でサポート。

 瞬く間に魔獣は看過できないダメージを負っていき、反撃で枝の群れをばらまくものの、もはや私たちに致命的な一撃を与えることはできなかった。


「トドメだ!!」


 間隙をついた私がこの戦いに決着をつけるべく、ひと息に魔獣へと踏み込む。

 これまでの皆の攻撃によって魔獣の全身はボロボロであり、人型の頭部の後ろ部分──樹木本体の外皮が剥がれており、脈打つ心臓らしいものが露わとなっていたのである。


 その心臓めがけて、蒼の一撃を送り込む──その刹那。



『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』



 吼えた魔獣の人型の頭部の口が大きく開かれるや、そこから濃厚な魔力光線が放たれてきた。


「なっ──」


 まったくの予想外の攻撃を前に、私は回避も防御もできる体勢ではなく。
 弱体化していなければ強引になんとでもできたのだろうが……生憎と、いまの私ではどうにもできなかった。
 しかし私には、切り札があるのである。

 髪飾りが発動するや魔法障壁が展開され、果断の一撃を辛うじて防ぐことに成功する。

 だが、その衝撃までは殺しきれなかった。
 私は圧力に弾かれるように大きく後方へと吹き飛ばされてしまう。
 地面に受け身も取れず叩きつけられる瞬間、アテナの影から伸びていた黒の手が私を優しく受け止めており、私はどうにか難を逃れることができていた。


(アテナには頭が上がらないな)


 出来たメイドに頭が下がる思いでアテナをちらりと見ると、彼女は無表情でグッと親指を立ててくる。

 そんな一方では。


「え──ちょ……!?」


 枝の攻撃を盾で受け止めていたレイを踏み台にデモナが魔獣へと跳躍しており、鮮烈な振り落としの一刀が、魔獣の心臓を真っ二つに切り裂いていた。


『GAAAAAAAAAAAAAAAA………………』


 断末魔を上げた魔獣の全身が崩壊していき、やがてはただの砂の山へと。

 戦闘が終わったことに白エルフたちが安堵の吐息を吐くが……


「ちょっとちょっと!? なんで私を踏み台にしたんですか!?」
「……手ごろな踏み台があったからですが」
「はあっ? 女を踏みつけるとか、あなた、マジで最低な男ですね!!?」


 予期せぬタイミングで踏み台にされたことで、前のめりで顔面から突っ伏していたレイは、鼻血を流していた。
 それゆえに、怒り心頭だったのである。
 しかしそんな彼女の怒りを受けても、デモナは何ら反省の色は見せておらず、そのことがさらにレイの怒りを沸騰させることに。


「あなたね──」
「レイや、ちと落ち着いてはどうじゃ?」
「ドラギア様……っ。ですけどこの男は……」
「世の中にはの、ドがつくほどのSッ気のある男もおるのじゃ。そういうタイプに何を言ったところで無駄じゃよ」
「ですけど……腹の虫が収まりません……」
「まあ、そういう男を力づくで組み敷いて鼻っ柱をへし折るも、また一興なんじゃがの!」
「……私には、ドラギア様の真似はできそうもありません」
「カッカッカ! そうかの? 一度経験すると、なかなか痛快じゃぞ?」
「私は、ドラギア様とは違うので……」


 次元が違う性癖を披露する主に、レイはすっかり毒気を抜かれてしまったようで、溜め息ひとつ。
 興味がないとばかりにデモナは踵を返しており、氷の魔剣を回収していた。
 途端に氷の床が氷解し、元の樹木の床へと。


「デモナ、大義だったぞ。その魔剣をお前に与えたのは正解だったみたいだな」
「……魔剣といえでも所詮はただの道具ですから。要は使い方ひとつです」
「確かにな」


 男たちがそんなやりとりをする一方では、アテナが私へと近寄ってきた。


「お疲れ様です、クレア様」
「…………悔しいな」
「クレア様?」
「こうしてトップクラスの実力者と肩を並べると、どうしても私の力量不足が目についてしまう」
「力量不足……ですか。表現が違うのではありませんか? 弱体化の影響かと」
「……同じことさ。私が足を引っ張る形ということにはな」


 アテナのみならずレイの援護もなければ、私は満足に戦えないということなのだ。
 なんとも……情けなくなってくる。
 まあ、なまじトップクラス連中と肩を並べる環境に身を置いているから、というのもあるのだろうが。

 かつては、自分もに居たというのに……


(少し己惚れていたのかもしれないな、私は)


 魔道具で強くなった気がしていたのだろう。
 空しい勘違いである。
 反省しなければならないだろう。


 パァン!


 気合いを入れ直す意味合いで頬を両手で叩く私へと、アテナが意外そうに眼を丸くする。


「クレア様。ご自分を痛めつける性癖に目覚められたので?」
「……そんなわけあるか」


 私は呆れ気味で応えるものの、少し強く叩きすぎたようで、頬からの痛みに少しだけ涙目になってしまうのだった。
 


 ※ ※ ※

 ※ ※ ※



「そうですか……クレアナード様はやっぱり世界樹に」


 兄妹エルフの家を訪れていたダミアンは、彼らから情報を教えてもらっていた。
 世界樹の異変後、もしやと思い世界樹へと向かう最中、道中にあった彼らを訪ねていたのである。


「前回と違って今回のは難易度が高いみたいだから、私たちはクレアさんに付いていかなかったんだよね」
「僕らの実力じゃ、足手まといになってしまうしね」


 残念そうにする兄妹エルフにダミアンは何て声をかけていいのかわからず、それゆえに、あえてその話題には触れないことにした。


「とりあえず、俺も世界樹に向かおうと思います。さすがに単騎で攻略は出来ないから、南のサウス村でクレアナード様の帰還を待とうと思います」
「僕が言える立場じゃないけど、僕もそれがいいと思う」
「ま、果報は寝て待てって言うしね! 白エルフ王もいることだし、絶対無事に戻ってくると思うよ」
「……ですね」
「クレアさんにさ、攻略が終わったらまた遊びに来てねって伝えてくれると嬉しいかな」
「わかりました。きっとクレアナード様も喜ぶと思います」


 約束を交わしたダミアンは、兄妹エルフの家を後にする。
 自然とその足は速くなっていた。
 それと共に焦燥感を感じてしまうのは、やはり肝心な場面で自分が彼女クレアナードを守れる位置にいないこと故だろう。
 ダンジョンの奥深くにいるということから駆けつけることもできないために、さらに焦慮を感じてしまう。


(クレアナード様……どうかご無事で……)


 ぎゅっと拳を握りしめ、走ることしばし。
 大地を疾駆していたダミアンは、急ブレーキをしていた。


「なんだこれ……」


 彼の視線の先──前方の地形が、大きく変わっていたのだ。

 大小様々なクレーターができており、あちこちが焼け焦げていた。
 まだ炎が消えていない箇所もいくつかあり、黒煙が空へと昇っていく。
 大地が縦横無尽に切り裂かれており、底が見えないほどに断裂する箇所さえ見受けられた。


 これらから判断するに、ここで何かことが起きて、この惨状はその跡、ということなのだろう。



「何があったんだろう……」


 驚愕と戦慄で呟く彼は、そんな大惨事の中心付近にて、ぺたんと地べたに座る女の姿を視認する。
 衣服がボロボロであり、全身が傷だらけの女魔族だった。
 見知らぬ女性だったが、さすがに放置するわけにもいかないので、ダミアンは警戒しながら駆け寄った。


「大丈夫ですかっ?」
「お! 少年、いいところに! 動けなくて困ってたんだよね!」
「え?」


 思いのほか元気そうな声にダミアンは胡乱げになるものの、女魔族がまったく動く気配がないので、言葉通り、本当に動けないのだと判断する。


「えっと、俺が近くの村まで連れて行きましょうか?」
「あーいやいや。そんなメンドーなことは良いからさ。ちょっとだけ、こっちに着てくんないかな?」
「はあ……」


 チョイチョイっと手招きする女魔族にやや訝しむものの、ダミアンは言われた通りにすることに。


「んーちょと届かないかな? もうちょい腰屈めてくれるかにゃ?」
「はあ……」
「オッケー! これで届くね。悪いけどさ、ちょびっとだけ生気分けてね?」
「え──」


 腰をかがめていたダミアンの顔が両手で掴まれるや、予想外に強い力で引き寄せられており、彼は何の反応も出来ないままで、唇を奪われていた。


「──っ!?」


 初めて感じる他人の唇の感触。
 それと同時に襲いくるは、猛烈な虚脱感と脱力感だった。
 もはや満足に立っていられなくなり、ダミアンはその場に座り込む。


「なんだ、これ……」
「あ~~~助かったぁ……。ありがとネ! 君若いんだしさ、すぐ回復するから安心して!」


 立ち上がった女魔族はダミアンの頭を少し乱暴にナデナデした後、首をコキコキと鳴らした。


「ちょーとばかりさ、久しぶりに本気で動いたもんだから疲れちゃってね~~~。私も歳かな? なーんてネ! にゃはは~~♪」
「あなたはいったい……」
「ありゃ? 私のこと知らないカンジ? 私は君のこと知ってるのに」
「え……?」
「あーっそっか! 見てたのは私だけであって、君とは直接面識なかったっけ」
「えっと……」


 尻もちをついたままのダミアンが、戸惑いの眼差しで彼女を見上げると。
 女魔族は、あっけらかんとした態度と声で言い放ってきた。

「私はね、元魔王のネミルだよン♪」
「え……元魔王……? え……えええええぇーーー!? なんでこんなところに……っ!!?」


 驚きで絶叫するダミアンにネミルは「いい反応♪」と楽し気に笑った後。


「まあ、自己紹介はこの辺で。私も忙しい身なんだよネ。逃げたを追わないとイケナイからさ!」
「元彼……?」

 
 飄々とする彼女の態度から、どこまでが本気でどこまでが冗談なのか、いまいちわからない。


「クレアナードに伝言お願いできるかにゃ? しばらく完全に離れると思うから、夜中に思う存分気持ちよくなっていいよーってさ!」
「え……!?」


 絶句して顔色をかえるダミアンをしり目に。


「んじゃ、バイナラ~♪」


 ふわりっと浮遊するや、そのまま風のように空の彼方へと去っていった。


「……えっと……」


 驚くことばかりで思考がついていかないダミアンは、その場で呆然とするばかりだった。


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