348 / 394
100億光年の時の彼方で
第346話
しおりを挟む成層圏の彼方。
そこに、俺はいた。
加速するスピードの最中、乾燥した大気が、——そのいちばん“低い”ところが、目の前へと近づいてきた。
地球の大気圏がタマネギのようにくっきりと虹色に色分けされている。
深い青、——上層大気の流域は、次第に遠くなっていく。
青は段々と薄らいでいった。
明るいオレンジ色が、白い膜の下に滲んだように広がっている。
前に女が言ってた。
深い海の底に住む生き物がいるように、俺たち人間は「大気」と呼ばれる層状の気体[空気]の底に住んでいるって。
大気中には通常小さな微粒子が浮遊している。
その微粒子によって光が散乱されるが、そのとき波長の短い光が、より強く散乱されて向きが変えられる。
だから太陽からの光のうち、波長の短い青い光が散乱されて、それが空を覆い尽くす。
空が青いのは、太陽の光そのものなんだ。
光に触れて初めて、世界は「色」を持てるんだ、って。
地平線上には青白い大気の層が見えた。
地上は茶色く濁っていて、所々に苔が生えていた。
成層圏の中腹を抜け、目まぐるしい景色の変化の中に強烈な空気抵抗を感じた時、螺旋状に膨れ上がった巨大な雲が、姿を現した。
その白い表面の内側には竜巻が起こり、雷鳴が轟いていた。
丸み帯びた水のしずくが、ポツポツと皮膚の表面にぶつかってきた。
キラキラと光を透過しながら、まるでシャボン玉のように、フワフワと宙を舞っていた。
空が、傾く。
地平面上に押し潰されていく重力が、視界の中心にあった。
真下にはまだ、雲の海が広がっている。
霞むほどに鮮やかな日の光が、通過する景色のそばに横たわっていた。
ゴオオオオオオ
つん裂くような耳鳴り。
ゴムのように伸びていく青。
雲はゆっくりと動いていた。
遠近感がわからなくなるほどの大きさだからか、遠ざかっているのか、近づいているのかが一瞬わからなかった。
風圧で目の中が乾く。
皮膚が、焼けるように熱い。
逆立つ髪。
バタバタと波打つ、——シャツ。
猛スピードで落下していく。
さっきよりもずっと、低いところに落ちていく。
どうすることもできなかった。
もがこうとしたけど無理だった。
無我夢中で手や足を動かした。
地上から湧き上がる雲の峰を、瞳の中に捉え続けていた。
それから数秒も待たない間に、足元に広がる対流圏の表層が、半透明に膨らみ始めた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ガイアセイバーズ6.5 -在りし日の君と僕-
独楽 悠
青春
15年前、とある都心の住宅地に、若い家族が越してきた。
ひとり息子の蒼矢(ソウヤ)は、買い物に寄った酒屋の息子で同い年の烈(レツ)と出会い、初見で一方的に親友認定される。
見知らぬ土地で不安と緊張を抱える中、快活で人懐っこい彼に、奥手で少し浮世離れした性格を補って貰いながら、少しずつ友情を深めていく。
幾つもの転機が訪れ、その度に乗り越えてふたりで成長していく蒼矢と烈。
そして大人になる手前、彼らの今までの人生で並ぶものが無かったほどの、劇的な転機を迎える――
◆更新スケジュール:2023/2/1から20:40に、毎日更新
◆注意事項
*著者の投稿済作品群『ガイアセイバーズ』の小サブストーリー集です。
著者の頭の中にある過去ネタをかき集めて、ひとつの作品としてそれっぽく仕上げてみました。
* 全年齢対象作品です。
* ヒーロー要素はありません。
* 途中、関連する他作品の閲覧が必要になるシチュエーションが挟まります。
必須ではありませんが、著者の他ナンバリング作品へ目を通されていますとよりわかりやすくお読み頂けます。
なお、他作品は全てレーティング有(全てBL)ですのでご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる