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100億光年の時の彼方で
第346話
しおりを挟む成層圏の彼方。
そこに、俺はいた。
加速するスピードの最中、乾燥した大気が、——そのいちばん“低い”ところが、目の前へと近づいてきた。
地球の大気圏がタマネギのようにくっきりと虹色に色分けされている。
深い青、——上層大気の流域は、次第に遠くなっていく。
青は段々と薄らいでいった。
明るいオレンジ色が、白い膜の下に滲んだように広がっている。
前に女が言ってた。
深い海の底に住む生き物がいるように、俺たち人間は「大気」と呼ばれる層状の気体[空気]の底に住んでいるって。
大気中には通常小さな微粒子が浮遊している。
その微粒子によって光が散乱されるが、そのとき波長の短い光が、より強く散乱されて向きが変えられる。
だから太陽からの光のうち、波長の短い青い光が散乱されて、それが空を覆い尽くす。
空が青いのは、太陽の光そのものなんだ。
光に触れて初めて、世界は「色」を持てるんだ、って。
地平線上には青白い大気の層が見えた。
地上は茶色く濁っていて、所々に苔が生えていた。
成層圏の中腹を抜け、目まぐるしい景色の変化の中に強烈な空気抵抗を感じた時、螺旋状に膨れ上がった巨大な雲が、姿を現した。
その白い表面の内側には竜巻が起こり、雷鳴が轟いていた。
丸み帯びた水のしずくが、ポツポツと皮膚の表面にぶつかってきた。
キラキラと光を透過しながら、まるでシャボン玉のように、フワフワと宙を舞っていた。
空が、傾く。
地平面上に押し潰されていく重力が、視界の中心にあった。
真下にはまだ、雲の海が広がっている。
霞むほどに鮮やかな日の光が、通過する景色のそばに横たわっていた。
ゴオオオオオオ
つん裂くような耳鳴り。
ゴムのように伸びていく青。
雲はゆっくりと動いていた。
遠近感がわからなくなるほどの大きさだからか、遠ざかっているのか、近づいているのかが一瞬わからなかった。
風圧で目の中が乾く。
皮膚が、焼けるように熱い。
逆立つ髪。
バタバタと波打つ、——シャツ。
猛スピードで落下していく。
さっきよりもずっと、低いところに落ちていく。
どうすることもできなかった。
もがこうとしたけど無理だった。
無我夢中で手や足を動かした。
地上から湧き上がる雲の峰を、瞳の中に捉え続けていた。
それから数秒も待たない間に、足元に広がる対流圏の表層が、半透明に膨らみ始めた。
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