335 / 394
トンネルの向こう
第333話
しおりを挟む小難しい文字の羅列。
意味不明な専門用語に、おじさんの名前。
…よくわかんないけど、1995年1月17日って言ったら、地震があった日じゃ…
セカンドキッド?
デジタルフロンティア?
何回か読み直したけどわからない。
女はパソコンの中に入っているデータを漁っていた。
他にも色々な文書があった。
そのどれもが、難しい内容だった。
「そのパソコンに、探しとる資料が?」
「このパソコンって言うより、オンライン上に保存されとるストレージにアクセスしとるだけや」
「ふーん」
「かなり厳重なセキュリティを突破する必要があるが、受付でもらったこのカードキーのおかげでな?」
「それが?」
「暗号化されたエリアを簡易的に通過できる。1時間しか有効やないが、十分や」
そんな便利なもんだったのか
ってかお姉さんの件、あれほんとにほんとなのか?
人造人間が何かを知らないわけじゃない。
思ってるのと違う可能性もゼロじゃない。
だとしても、だ
「…あのさ」
詳しく聞こうと思ったが、女は画面を見ろと催促してきた。
今度はなんだ…?
見たところで、よくわからないと思うんだけど。
「キーちゃんの記録が残っとる」
「は!?」
「“日記”みたいなもんや。と言っても、どの“世界線”のキーちゃんなんかはわからんが」
千冬の日記…?
画面を見ると、千冬の名前がそこにはあった。
それだけじゃない。
小難しい文章は無くなって、そこには日常的な文字や言葉が書かれていた。
どれも、ブログみたいな書き方だった。
簡易的な日付と、その日の出来事。
…なんで、こんなもんが…?
“俺が知ってる千冬じゃない”
と、女は言う。
じゃあこの前の世界の千冬?
どうも、それも違うみたいだった。
「ここに載っとる文書は、別の世界から集積したデータの一つに過ぎん。私たちはこのデータを、『世界の記憶』として保管しとる。これから先に起こること、これまでに起こったこと。そういったいくつもの多世界線上の中に、世界の“地脈“が流れとる。そのほんの一部を、データとして管理しとるんや。デジタル上に繋がった、クラウドネットワークを駆使してな」
「えっと…」
「無理に理解しようとせんでええ。わかる範囲で、理解していったら」
ここじゃない”別“の場所。
別の時間。
限りなく遠い距離の先に、「彼女」がいる。
そう言うけど、”遠い”っつったって…
別の世界線の千冬、か。
わからないのは、その「千冬」が書いたっていう記録が、このパソコン上で閲覧できてることだ。
普通に考えておかしくね?
どうやって、その記録を入手したんだ?
単純に疑問だった。
別の世界のことは、この世界とは関係ないんだろ?
だったら
「今は理解できんでもええ」
「そうは言ってもやな」
「ひとつ言えるのは、この「別の世界のキーちゃん」も、あんたを探しとったということや」
「この前の話?」
「そう」
俺を探してる。
世界を旅して、未来を変えようとしていた。
その「断片」が、この文書の中にあると言った。
彼女が書いたというその記録は、どれも、赤裸々に書かれたものだった。
いつの時代かもわからない、どこで書かれたものかもわからない、——そんな遠い気配を、どこかに感じた。
膨大な文字と、数字の中に。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる