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夏の花火
第315話
しおりを挟む海岸線がしきりに鳴っている。
防波堤にぶつかる波が、高くなったり、低くなったり。
空に浮かぶ星は、広大な宇宙を旅するように、銀河帯の帯の中をなでらかに漂流していた。
神戸市内の喧騒は遠く離れていくようで、確かな色遣いと質感を、夜の向こうに広げている。
遊覧船が汽笛を吹く。
それは鯨の鳴き声のようにも聞こえた。
遠く、青白く流れている光。
しらしらと伸び上がった、星のしずく。
夜空には泡のような粒状の膜が、大きく膨らんだり、萎んだりしていた。
月は、暗闇の淵を漂っていた。
波と波の切れ間に浮かぶ月明かりが、さざめく水面の上で白い尾を伸ばし、海面スレスレを泳いでいた。
大きく息を吸っている海。
車の流れが止まらない街。
街の明かりは隙間もないほどに鮮やかに色づいている。
ポートタワーも、センタービルの屋上も。
青く浅くうつろぐような空気の静けさが、そっと耳のそばを掠めていく。
森の奥からかけてくる川のせせらぎが、チョロチョロと鈴の音を揺らすように、涼しく響き渡り。
千冬が今どこにいるか。
今、何をしているか。
心の隅に掠めていく感情は、どうしようもないくらいに覚束なかった。
戻れないのはわかってる。
何も変えられないって、わかってる。
それでも女は言うんだ。
“あんた次第”だって。
「一緒に花火を見る約束をしとった」
「誰と?」
「キーちゃんと」
眩しいくらいの星空の下で、空に向かって伸びていく光が見えた。
ヒュルルル…という音を出しながら、暗闇の中心へとかけていく。
9月10日。
そうだ、今日は花火大会だ。
ポートアイランドの埠頭で上がる6000発の花火。
昔はよく行ってた。
がま口の小銭入れを持って、大きなパンフレットを手に持ち。
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