上 下
317 / 394
夏の花火

第315話

しおりを挟む

 海岸線がしきりに鳴っている。

 防波堤にぶつかる波が、高くなったり、低くなったり。

 空に浮かぶ星は、広大な宇宙を旅するように、銀河帯の帯の中をなでらかに漂流していた。

 神戸市内の喧騒は遠く離れていくようで、確かな色遣いと質感を、夜の向こうに広げている。

 遊覧船が汽笛を吹く。

 それは鯨の鳴き声のようにも聞こえた。

 遠く、青白く流れている光。

 しらしらと伸び上がった、星のしずく。

 夜空には泡のような粒状の膜が、大きく膨らんだり、萎んだりしていた。

 月は、暗闇の淵を漂っていた。

 波と波の切れ間に浮かぶ月明かりが、さざめく水面の上で白い尾を伸ばし、海面スレスレを泳いでいた。


 大きく息を吸っている海。

 車の流れが止まらない街。

 街の明かりは隙間もないほどに鮮やかに色づいている。

 ポートタワーも、センタービルの屋上も。

 青く浅くうつろぐような空気の静けさが、そっと耳のそばを掠めていく。

 森の奥からかけてくる川のせせらぎが、チョロチョロと鈴の音を揺らすように、涼しく響き渡り。



 千冬が今どこにいるか。

 今、何をしているか。

 心の隅に掠めていく感情は、どうしようもないくらいに覚束なかった。


 戻れないのはわかってる。

 何も変えられないって、わかってる。

 それでも女は言うんだ。

 “あんた次第”だって。


 「一緒に花火を見る約束をしとった」

 「誰と?」

 「キーちゃんと」


 眩しいくらいの星空の下で、空に向かって伸びていく光が見えた。

 ヒュルルル…という音を出しながら、暗闇の中心へとかけていく。

 9月10日。

 そうだ、今日は花火大会だ。

 ポートアイランドの埠頭で上がる6000発の花火。

 昔はよく行ってた。

 がま口の小銭入れを持って、大きなパンフレットを手に持ち。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

the She

ハヤミ
青春
思い付きの鋏と女の子たちです。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

アルファポリスで書籍化されるには

日下奈緒
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスで作品を発表してから、1年。 最初は、見よう見まねで作品を発表していたけれど、最近は楽しくなってきました。 あー、書籍化されたい。

処理中です...