上 下
309 / 394
夏の花火

第307話

しおりを挟む

 ——あ、流れ星!


 そう言って、女は指を指す。

 その言葉に釣られて空を見た。

 流れ星なんて見当たらない。

 でも、いつ流れてもおかしくないくらい、数え切れないほどの光がこぼれそうになっていた。

 星を追う彼女の目は、信じられないくらいに綺麗だった。

 まるで、おもちゃを見るときに子供のように。


 「海」

 「え?」

 「まるで星の海やな」

 「…ああ」

 「あそこに行こう」

 「は?」

 「ほら、あの星。北斗七星の向こう」


 どこ?

 よく見えない。

 小さな星と、大きな星。

 無数の粒が、空の向こうまで続いてる。

 モヤのような白い光が、空を縦断するように流れている。 

 まるで川だった。

 天の川とは、よく言ったもんだ。

 青白い表面が水をこぼした時のようにじんわり広がり、その中央には、あふれそうになるくらいの星が。

 神戸の街も大概賑やかだが、星のしずくは、波打つように夜の闇間を切り裂いていた。

 静かな吐息を漏らし、ゆらゆら漂いながら動いている。

 一体、どこまで続いてるんだろう。

 ふと、思ったんだ。

 もしも空に川があるなら、その流れが行き着く先はどこだろうって。

 手で掬えるほどの星も、霞むくらいに遠い光も、まだ、確かな軌跡の上に漂っている。

 昔笑われたっけ。

 夜空に浮かんでる星は、いつか全部流れ星になっちゃうの?

 ——そう、尋ねたら。

 千冬はクスクス笑ってた。

 そんなわけないでしょって、スナック菓子を口に頬張り、何も知らない俺に教えてくれた。

 星は、いつも同じ場所にあるんだって。

 急に、無くなったりはしないって。


 
 子供ながらに、変な妄想を描いてた。

 いつか巨大な船で、空に流れる星の上を泳いでみたい。

 バカだなって思う。

 だけど、昔は本気で思ってたんだ。

 天の川の向こうに流れる光を追って、広い宇宙を旅したいと思ってた。

 「宇宙」がなんなのかもよく分かってなかったけど、ただ、なんとなく。

 世界の果てがどこにあるのかを考えてた。

 空がどこまで続いてるのかを想像してた。

 地平線の向こうに落ちていく光の軌跡を追いかけて、いつか、地球の外側に広がる世界を、見てみたかった。

 くだらない理由だけどさ?

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

the She

ハヤミ
青春
思い付きの鋏と女の子たちです。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

帰宅部ですか。帰宅部ですよ。

安眠マクラ
青春
 私立中宮高校、この高校では部活動に入ることが義務付けられていた。 が、主人公、四宮直人はそれを知らなかった。元々部活動には参加しないつもりだった直人は仕方なく入る部活を探し始める。そこで見つけた、直人にぴったりの部活、それは...帰宅部だった。

処理中です...