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丘の坂道

第292話

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 「めちゃくちゃええ子やったやろ?おまけに美人やし。彼女とあんたは、2年の時から付き合っとったんやで?」


 そうそう。

 めちゃくちゃいい子だった。

 普通に可愛いし、ありゃモテるだろうなって…


 ……………え?

 ……………………………今なんつった?



 「付き合ってた」

 「…誰と、…誰が…?」

 「あんたと」


 …

 ……え

 ………ちょっと待って

 付き合う??

 俺と、…彼女が…?


 「ほんと、びっくりするよな。あんたの何がええんやろ」

 「…待て待て。「付き合う」って、…そういう意味か??友達としてとかじゃなく…?」

 「そうやけど?」

 「いやいやいや、…待て待て。…えーーっと」


 一ノ瀬さんと、…俺が?

 …なんで?


 「私に聞かれても」

 「どういう状況それ…」

 「どういう状況って…、そういう状況やん」

 「!!?」


 今まで誰かと付き合ったことはない。

 誰かに告ったこともない。

 告られたことなら、一度だけあるが。


 一ノ瀬さんとは映画を見る約束をしてた。

 いわゆる“デート”ってやつだ。

 なんでそんな約束をしたのかはわからない。

 俺から誘ったみたいだが、どういうつもりなのか、逆に聞きたいくらいだった。

 大人になったら、色んなことがあるとは思うよ?

 今は別に想像もできないけど、周りを見てたら、なんとなくさ?


 だけど、誰かと付き合うなんて想像したこともなかった。

 クラスでそういう話がしょっちゅう飛び交ってるが、俺はいつも傍観者だった。

 当事者じゃなく観客。

 それが自然というか、フツーのことっていうか…


 「いつまで…?」

 「付き合っとったの?」

 「うん」

 「卒業するまで」

 「はあ!?」


 1年以上も付き合ってたって、…まじかよ

 別に一ノ瀬さんがどうとかって話じゃない。

 なんで、俺と…?

 そもそもどういう経緯で付き合ったんだ?

 そんなに仲が良かったのか…?


 「せやから私に聞かれても知らんって」

 「でも知っとんやろ!?」

 「知っとるけど、詳しくは知らん」

 「どういうことやねん」

 「私は色んな世界線に移動できる。一部の情報については、表面的なことしかわからん」

 「色んな世界線…」

 「別に驚くようなことやないで?世界が違えば、色んなことが起こるもんや。出会う人も違えば、タイミングも変わってくる。同じような世界があったとしても、“全く同じ世界”はどこにも存在せん」

 「そんなこと言われても…」

 「あんたが神戸高の生徒やったのも、同じような理由や。こっちの世界で出会った人たちとは、あっちでは知り合ってすらいない。そういうケースが普通にある。例えば、そうやな…、昨日交差点で出会った人たちと、同じ時間に出会う確率はどれくらいやと思う?」

 「…同じ時間に?」

 「そうや。全く同じタイミング、距離で」

 「そんなん…、かなり低い確率やろ」

 「そういうこと。たった1つでも何かが変われば、“世の中の全て”が変わる。そうやって微妙に、毎時毎分、毎秒、出来事は変わっとる。世界と世界の誤差は、今でも加速度的に広がっとる。ややこしい話やけど」


 …えーっと

 …うーん


 よくわからんが、別の世界で、俺は別の人生を送ってる…?

 そういう解釈で合ってるよな…?

 理解はできるが、実感は湧かなかった。

 いや、…まあ、わかるよ?

 言いたいことは。


 「付き合っ…たのか…。ええ…!?」

 「今変な妄想したやろ?」

 「しとらんわ!!」

 「顔真っ赤やで?」

 「ほんまに…?」


 
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