雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香

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あの夏

第233話

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 「俺からしたら、全然想像できんわ」

 「なにが?」

 「“ライバル”ってことも、一緒に高校生活を送ってることも」


 確かめたくて、一緒に登校した。

 何が起こってるのかを知りたかった。

 “一緒に学校に行く”

 そんな出来事が、隣にあるなんて思えなかった。

 アイツの顔を見るたびに思うんだ。

 “本当に千冬なのか?”って。

 しつこいくらい、何度も。


 「俺ってどんなやつ?」

 「へ??」

 「別人みたいやって言うけど、どこらへんが?」


 うーん、と、彼女は首を傾げた。

 いまいちわかんないんだよな。

 俺は俺だろ?

 仮に世界が変わってるとしても、別人なんかじゃない。

 …と思う。

 確信は持てないが、変わりようがなくない?

 同じ人間なんだぞ??

 そりゃ着てる制服も違うし、持ってるスマホだって違う。

 でもそんなのは微々たるもんだろ。

 一ノ瀬さんの目には、どう映ってるんだ?

 率直な意見を聞かせて欲しい。

 ざっくりでいいから。


 「…どうって」

 「でも、比べようがないわな…」

 「野球少年って感じ?」

 「俺が!?」

 「うん」


 野球…少年。

 そこまでのめり込んでるつもりはない。

 でも、事実プロ野球選手を目指してるくらいだ。

 1年でレギュラーだって言うし、相当やり込んでるんだろうな。

 一ノ瀬さんが言うには、毎日バットを振ってるそうだった。

 練習でとかじゃなく、部活が終わった後も、雨が降った日にも。

 バットを振ることくらい、今の俺にだってある。

 アイツらに教えなきゃいけないし、いずれ試合をする日が来るだろうから。

 だけど、“世界一“って、…なんなんだ?

 どうしてそうなった?

 まじでどっから、その発想が湧いて出たんだろうか。

 本当になれると思ってんのか?

 だとしたら、相当バカだと思うんだが…


 「この前ちーちゃん悔しがってたで?亮平に打たれたぁって」

 「へぇ」


 なんで、”バッター”なんだろうか。

 理由が無いだろ。

 目指してたのは千冬の姿だ。

 何度も言うが。

 “千冬に勝つ”とか、その発想がまずわかんねー

 甲子園を目指してたって言うんなら、まだわかるんだ。

 実際俺もそうだった。

 それに、千冬がいるこの世界なら、今もそこに本気で向かおうとしてる自分がいることくらい、容易に想像がつく。

 それが、俺たちの目標だったからだ。

 キャッチボールを始めたあの時から。


 「いっつも野球のことばっかやで?」

 「千冬が?」

 「いやいや、亮平君がよ?休み時間中もコウ君と野球道具のカタログ見てたりするし、授業中だって、好きなメジャー選手の速報チェックしとるし」

 
 メジャー速報とか、久しく見てないな。

 カタログなら、アイツらと一緒によく見てるけど。

 プロ野球の試合も、あんま見てない。

 時々、ニュースで目にするくらい。

 一ノ瀬さんが言う俺の「イメージ」は、俺の想像とだいぶかけ離れてた。

 ようするに、思った以上に野球漬けの日々を送ってた。

 少なくとも、今の俺と比べれば。

 なんなんだろうな。

 いや、別に意外とか、そういうふうに思ってるわけじゃない

 千冬が隣にいるなら、真剣に野球をやっててもおかしくない。

 問題はそこじゃないんだ。

 話を聞けば、千冬をぶっ倒すとかぶっ倒さないとか…


 俺と千冬は、未来で甲子園に行ったそうだ。

 女はそう言ってた。

 俺がいる世界とは、別の世界で。


 でもわかんねーのは、普段から千冬とよく喧嘩してるってことだ。

 教室でもグラウンドでも、ライバル心を燃やしながら、“千冬にだけは負けない”って、そう言ってるそうだ。

 千冬も同じく。

 その関係性がよくわからない。

 闘争心バチバチの言葉を交わして、ポケモンバトルでも交わすかのようなフットワーク。

 そんな日常を、想像することはできない。

 俺たちはバッテリーだった。

 俺は千冬の、単なる練習相手でしかなかったのに。
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