上 下
220 / 394
俗に言うアレ

第218話

しおりを挟む

 海沿いを走り、浜手交差点前まで来た。

 背の低い須磨駅の駅舎が見える。

 高層ビルが建ち並ぶ街並みを抜けて、突き抜けた空の広さが、ぐっと近づいてくるように降りてきた。

 赤茶けた陽の光に照らされる、タバコ屋の前の郵便ポスト。

 電信柱のすぐ横にある、ダイドードリンクの自販機。

 昔から変わっていない、小洒落たサーフボードのお店。


 すぐそこに大都会の街並みがあるはずなのに、須磨駅の周りはどこかこじんまりとして、どこか、田舎臭い。

 狭いと言うかなんというか、懐をくすぐるような安心感が、近くにある。

 いつもそばにあるんだ。

 街の喧騒とは無縁の肌を撫でるような手触りや、太く長閑な息遣いが。


 塩気を含んだ南からの風が、鼻の中に透き通る。

 ——放課後、自転車で通るときはいつもそうだ。

 鉢伏山の輪郭が海岸線の麓まで降りてきて、国道沿いの明かりが、細長い線路の向こう岸まで続いている。

 流れるような景色のそばで、白い砂浜が街の全部を覆うように広大で、駅のホームに並んでる人たちが、夕暮れ時の日差しの下に佇んで。


 見晴らしがいいと言えば見晴らしがいい。

 ゴミゴミした街の中とは裏腹に、水平線の向こうから届く磯の匂いが、瀬戸内海の青を連れてくるから。


 視線を傾ければ、須磨の穏やかな風景がそこにある。

 ガードレールを曲がった先や、防波堤の階段を登った先に。

 三ノ宮も地元のようなもんだが、ここらへんとはちょっと違うんだよな。

 どこがどうってわけじゃなく、なんとなく、街全体の雰囲気というか。



 「須磨浦高校」と書かれた正門を抜けて、自転車をテニスコートのすぐ裏に停めた。

 だだっ広い敷地に、塗装の剥がれたサッカーゴール。

 校内をランニングしてる陸上部の掛け声が、運動部で賑わうグラウンドの中に響いてた。

 ソフト部もサッカー部も、これからストレッチを始めるところだろう。

 ネット際にかけられた誰かのタオル。

 それから、立てかけられたテニスラケット。

 ペットボルトの麦茶が、ラケットのそばで汗ばんでた。

 9月と言っても、まだ少し暑い。

 今年の夏はとくに暑かった。

 気象庁によれば、今年は記録的な猛暑らしいっけ?

 40度だぞ40度。

 そのうち、50度とかにいくんじゃないか??

 だって毎年、ちょっとずつ暑くなってる気がするし…

 温暖化か何か知らないけどさ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

傷者部

ジャンマル
青春
高校二年生に上がった隈潟照史(くまがた あきと)は中学の時の幼なじみとのいざこざを未だに後悔として抱えていた。その時の後悔からあまり人と関わらなくなった照史だったが、二年に進学して最初の出席の時、三年生の緒方由紀(おがた ゆき)に傷者部という部活に入ることとなるーー 後悔を抱えた少年少女が一歩だけ未来にあゆみ出すための物語。

Real~Beginning of the unreal〜

美味いもん食いてぇ
ファンタジー
12月24日。色とりどりにライトアップされた東京都池袋。 独り身のオタクには、少しばかり肌寒い夜。 周りのカップルを横目に、口元をうずめた彼は気づく。……クリスマスツリーの天辺に現れた、不可思議な球体の存在に。 指を指す者、 カメラを向ける者、 ざわめくその中心に、 ーー何かが落ちた。 舞う鮮血。響きわたる悲鳴。 その日を境に、世界は変わった。 これは一人のオタクが、変わってしまった現代を死に物狂いで冒険する 『Real』 である。  序章 特別区域生存 編 【第1巻】〜デパート内攻防戦〜 【第2巻】~国と魔獣~ 【第3巻】~友との繋がり~

天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ
ファンタジー
──想い人の潔白を証明する、少年の物語 毎朝6:10更新予定! 【あらすじ】 太陽の恵をもたらす『日の巫女』。彼女を信仰する形で作られた集落『クライヤマ』で生まれ育った少年ユウキは、幼馴染でもある日の巫女に恋心を抱いていた。 だがある時、クライヤマは巫女への不信感から終焉を迎える。それと時を同じくして、世界は、『月が落ちて地表に鎖が刺さる』という奇怪な厄災に見舞われた。クライヤマに落ちた月の影からは、人を蹂躙するバケモノが生まれて大混乱を招く。 そんな惨状に際し、世界の人々は『クライヤマとその巫女は、世界侵略を目論む邪神だ』と考え始めた。 それは違うのだと、個人としての巫女を知るユウキは、日の巫女の潔白を示す為に月を解放する旅に出るのであった──。 【主要人物紹介】 〇ユウキ:クライヤマ出身の少年。日の巫女に想いを寄せる。巫女として崇められる彼女をクライヤマで唯一、一人の少女として見ていた。彼女が邪神と認定されることに激しく抵抗し、潔白を証明せんと旅に出ることを決意。 〇リオ:クライヤマで日の巫女として崇められていた少女。占いなどの力を持つが、それらを総称して『太陽の加護』と呼ぶ。巫女という役割に誇りを持つが、幼少からの友であるユウキには意外な一面を見せることも。 〇アインズ:ブライトヒル王国騎士団、第一部隊長を務める女性騎士。物腰柔らかく、仲間想いな性格。王の命令により、ユウキの旅に同行することとなった。 〇ツヴァイ:ブライトヒル王国騎士団、第二部隊長を務める男性騎士。アインズとは逆に、どこか冷たさを感じさせる人物。 ○ポリア:ニューラグーン国の少女。世界各地の文化が好きで、特にクライヤマの魅力に取り憑かれている。クライヤマや巫女を邪神だとする世論が広がっても、彼女はクライヤマを愛し続けた。 〇桜華(おうか):ウルスリーヴル国にて国防などを務める組織『防人』に所属する女性剣士。組織の上層に立つ人物だが、地位と言動のギャップが激しい。 〇タヂカラ:トリシュヴェア国で生まれ育った大男。建国と反乱の英雄であるタカミを祖父に持つも、国を背負う責任の継承を拒んだ。 【投稿サイト】 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。 アルファポリス版はその改稿版です。 【クレジット】 表紙画像:pixabay.com 著:ねこかもめ(𝕏:Catkamome)

沢田くんはおしゃべり

ゆづ
青春
第13回ドリーム大賞奨励賞受賞✨ありがとうございました!! 【あらすじ】 空気を読む力が高まりすぎて、他人の心の声が聞こえるようになってしまった普通の女の子、佐藤景子。 友達から地味だのモブだの心の中で言いたい放題言われているのに言い返せない悔しさの日々の中、景子の唯一の癒しは隣の席の男子、沢田空の心の声だった。 【佐藤さん、マジ天使】(心の声) 無口でほとんどしゃべらない沢田くんの心の声が、まさかの愛と笑いを巻き起こす! めちゃコミ女性向け漫画原作賞の優秀作品にノミネートされました✨ エブリスタでコメディートレンドランキング年間1位(ただし完結作品に限るッ!) エブリスタ→https://estar.jp/novels/25774848

トゥルードリーム〜努力と掴んだ夢〜

saiha
青春
青春を好む山本は女子応援団へ入り3年目を迎えた。しかし、応援団に入っている後輩が問題を起こしたことで職員は応援団に対して反感を持ち、解散を要求した。山本の青春はどうなるか、応援団はそのまま存続できるのか!

アルファポリス収益報告書 初心者の1ヶ月の収入 お小遣い稼ぎ(投稿インセンティブ)スコアの換金&アクセス数を増やす方法 表紙作成について

黒川蓮
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスさんで素人が投稿を始めて約2ヶ月。書いたらいくら稼げたか?24hポイントと獲得したスコアの換金方法について。アルファポリスを利用しようか迷っている方の参考になればと思い書いてみました。その後1ヶ月経過、実践してみてアクセスが増えたこと、やると増えそうなことの予想も書いています。ついでに、小説家になるためという話や表紙作成方法も書いてみましたm(__)m

処理中です...