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夏の終わりに

第2話

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 私は揺れる電車の後部座席の隅で、昔のことを思い出していた。

 謝りたい言葉。

 声に出して伝えたい思い。

 あれから、もう随分と時間が経つ。


 2年前に起きたこと。

 2年前のあの日に、「世界」が変わってしまったこと。


 そのことを後悔していないと言えば、それはきっと「嘘」になる。

 進んでいく電車の車輪の音は滑らかに私たちを運んでいった。

 時速80キロで進む車体。

 カラフルに色づいた神戸市内の繁華街。

 キーちゃんはお腹空いてないの?と心配しながら私の口にポテチを運んでくる。

 私はそれを頬張った。

 コンソメ味が嫌いなわけじゃない。

 塩よりもコンソメ。

 しょうゆよりもコンソメ。

 でもどうせならじゃがりこが良かった。

 口にポテチをいっぱいにしてからそう思った。

 頬張りながら、キーちゃんに「次の駅で降りよう」と言った。


 驚いた表情だったのは、私だった。

 すんなり言うことを聞いてくれるキーちゃんが、すごく意外で、てっきり早く病院に行こうよ!と催促されるのかと思った。

三ノ宮を過ぎて、六甲道という駅で降りた私たちは、降りたこともない駅と初めての街並みに戸惑いながら、どこか静かに休めるところがないか探した。


 「ごめんね突然」


 私の身勝手で目的を頓挫させてしまったことを謝る。

 キーちゃんは大丈夫と頷いて「うなぎが食べたい」と言い出した。

 うなぎなんてどこにあるんだろうとスマホを開いて探していると、すぐ近くの場所に寿司屋があるのが見つかった。

 それならそこにしようよとキーちゃんは言って、私たちはそこに向かうことにした。


 私が突然電車から降りた理由を、キーちゃんは聞かなかった。

 朝、友達から電話があって、どうしようと迷っている私の手を引っ張って家を出る。

 自転車に乗って、路地を曲がる。

 駆け足でここまで来た。

 後ろを振り向くことはなかった。


 西宮行きの片道切符と、握りしめた地図。


 このやり場のない感情をどこに向けていいのかわからない。

 私は、亮平に会いたくない。

 でも、会いたい。

 そんな感情の揺れ動きが私の頭の中をぐちゃぐちゃにした。

 震える手足がここにあって、それを制御できない時間。

 言い逃れのできない緊張が、西宮に近づくたびに大きくなった。


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