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シャワー借りていい?

第11話

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 「…アカリは、どこにいたんだ」


 さっきから、ずっと気になってた。

 アカリが目の前にいるという事実は、非現実的以外の何ものでもなかった。

 こう言っちゃなんだが、もう戻ってこないと思っていた。

 縁起が悪い言い方なのはわかってる。

 自分の言ってることが、非常識だってことくらい。


 …でも、10年だぞ…?

 10年も行方不明だったんだぞ…?

 いなくなって最初の3年くらいまでは、街のどこかに彼女がいないか、探し回ってた。

 ふとした時に振り返る自分がいた。

 学校に行く時。

 駅のホームで、誰かとすれ違う時。

 アカリに似ている人を見つけては、思わず声をかけてしまう自分がいた。

 それくらい、気が気じゃなかった。


 「…えっと」


 彼女は困ったような表情を浮かべた。

 何かを言いかけて、何も言えなかったような感じだった。

 ビール缶を口に運ぶ。

 ゆっくりとそれを味わいながら、ゴクッと喉を鳴らす。

 おもむろに取り出したのは、タバコだった。

 吸っていい?と言うから、俺はライターを差し出した。

 最近は吸ってなかったが、灰皿は部屋にあった。

 マルボロのメンソール。

 そうか。

 彼女ももうそんな歳なんだな。

 自分と同い年のはずなのに、なぜか変な感覚を覚えた。

 アカリももう二十歳(はたち)を越えてるんだ。

 当たり前のことが、当たり前じゃないと思えてしまった。


 「どっから話せば良いかな」


 遠い目をしたまま、煙草に火を灯す。

 その手つきは滑らかで、自然体だ。

 普段から吸ってるんだろうなと思った。

 白い煙が、細長い指先の上に揺蕩う。

 どこか寂しげでもあった。

 俯いた視線と、神妙な息遣い。

 “何かあったんだろうな”とは思った。

 つーか、何もないわけがなかった。

 どうして突然いなくなったのか。

 どうして、10年もいなかったのか。

 アカリの家族はずっと心配してた。

 妹の和葉は、今でもSNSで呼びかけていたりする。

 アカリは知ってるんだろうか?

 家族のみんなとはもう会ったんだろうか?

 次から次へと、気になることが浮かび上がった。

 どんな言葉を口にするのか、気になってしょうがなかった。


 「さっきの話に戻るんだけど」

 「…さっきの?」

 「追われてるって」

 「…ああ」

 「あれ、ほんとなんだ。私は10年前に攫われた。ある“組織”にね」


 想定しているようで、想定していない言葉。

 “攫われた”。

 確かに、そういうことが日常で起こり得るんだとは思う。

 アカリがいなくなった時、誰かに拉致されたんじゃないかって、色んな方面からの憶測や推測が飛び交った。

 急にいなくなるなんて普通はありえない。

 いなくなったとしても、何かの事故とかなら、普通はどこかで見つかるもんだ。

 だから、「事件性」がある出来事としての論調が、当時は強かった。

 今でも、その「説」は根強い支持を得ていた。

 アカリは美人だったし、女子中学生だったっていうのも、事件性を持たせるには十分な要素になっていた。

 不謹慎だよな…?

 でも、そう考えざるを得なかったんだ。

 事故じゃないなら、「人」の手が介入してるんじゃないか。

 そう考えることの方が自然だった。

 それがもっとも現実的だったんだ。

 …考えたくはないけどさ
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