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深淵からの使者

第242話

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 「泡」は夜月と真琴の周囲の空間を包み込むように膨らんでいた。

 ゴムのように伸びていく液体の表面が瞬く間に広がっていく。

 緑色に染まった艶のある表面。

 「ガム」の能力によって、粘り気がある柔らかい成分が流れるように浸透していた。

 水にしては色が濃く、まるでメロンソーダのようでもある。

 その「緑」は、緑間が展開した「ガム」の能力の影響によるものではなかった。

 ——正確には、緑間が展開した「泡」の構成物質は、“彼の魔力”ではなかった。

 「水」。

 つまり“液体”には違いない。

 その表面はシャボン玉のように艶ががっており、かつ中が透き通って見えた。

 水属性の魔力が関与していることは間違いなかった。

 ただ、それは緑間の魔力によって構成された「水=液体」ではなく、外部からの“提供”によるものだった。

 泡の成分がどんな“物”であるかは、この場面に於いては問題ではなかった。

 彼の「ガム」は生物以外のあらゆる物質をコントロール下に置ける。

 対象が生物であったとしても、それが“魔力元素のみ”で構成された「元素生物」であれば、能力を反映することが可能な場合もある。

 泡の表面が緑であったこと。

 「液体」であったこと。

 緑間の横には彼女がいた。


 ——そう、ファイアーアローのメンバーの1人、水無月モモカだ。


 彼女は、緑間の「ガム」の発動時に、自らの魔力を展開していた。

 ほぼ同時刻だ。

 緑間が行おうとしていること。

 チームとして動くべき行動と選択。

 そのあらゆる要素を加味しながら、緑間の一挙一動と“シンクロ“していた。

 手に取ったギアを片手に、怒涛の如く水魔法を生成していた。

 夜月たちの周りを囲んだ液体の正体は、「空想の友達(イマジナリー・フレンド)」の能力を持つモモカによって生成された、“プリン”と呼ばれる特殊生命体だった。

 液体が「緑」だったのは、その特殊生命体が持つ「魂の色」だった。

 彼女は自らの空想で描いた生物を魔力を用いて生成することができるが、その媒質となるものは「水」であり、彼女の「想像力」に他ならない。

 生命体は様々な色によってモードに分かれており、“緑色”は「平和」「バランス」「癒し」などの感情がモチーフで、攻守ともにバランスの取れた一形態として利用されることが多い。

 第一に、彼女の“プリン”は戦闘以外でも多くの形態が存在し、彼女の身の回りの手助けをするパートナーとしての役割を果たすことが多い。

 例に挙げるとすれば、彼女の家事の手伝いをするシェフや掃除婦、勉強や事務処理の手伝いをする秘書、柔らかいクールアイス枕であったり、フィット感抜群の椅子用クッションであったりと、その用途や様態は様々だ。

 彼女は戦闘はあまり得意としない。

 というより、戦闘をあまり好まない。

 彼女自身が先陣を切って戦闘の前線に立つことは極めて珍しく、ファイヤーアローに在籍するようになってからは、まだ、前線に立ったという事例が報告されていなかった。

 彼女のギアは「ウォーターバッシュ」と呼ばれるハンマーだが、その攻撃的な見た目に反し、坂本と同様、チームのサポーターとして働く側面が強く、特に味方の能力を強化する“後方支援要員”として、確かな実績と信頼を積み上げていた。
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