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深淵からの使者
第235話
しおりを挟む夜月の頭の中に占めていたのは、“球体の性質“そのものだった。
電磁波がキャッチした情報によれば、球体の内部にひしめく魔力の粒子は、それぞれが1つのところに留まることなく動き回り、水のような媒質としての流体性の中に結合しながら漂っていた。
例えるならば、巨大な容器の中に入れられた液体が、容器の形に沿って自由に流動変形し、絶えず動き続けているような状態だった。
魔力そのものを高密度の領域内において溶かしているような化学反応。
そんな“性質”が、物体全体を通して浸透していた。
それはまるで、「生きている細胞」だった。
私たちの細胞には(理想的な溶媒である)水が多く含まれており、生命現象を司る化学反応の場を提供し、また水そのものが種々の化学反応の基質となっている。
体液として、体内の物質輸送や分泌物、粘膜に用いられるほか、高分子鎖とゲル化することで体を支える構造体やレンズにも利用されている。
クマムシのように厳しい環境にも耐えられる生物は、体内の水分を放出し、不活性な状態を作り出すことができる。
球体内部から感じられた脈動。
それは水を基質とする生物のような複雑な化学構成が、あらゆる複合的な組成を通じて立体的に構造化しているような状態だった。
球体内部の物質の一つ一つは、細胞のように細やかな分子形状によって高度に構造化されており、“それ自体”が生きて活動しているような電気的な変化を絶えず空間内に発していた。
“懸念”だったのは、球体内部にはあらゆる魔力が対流している物質上の変化が組織全体を覆うように広がっており、本来であればあり得ないような微細な粒子が、組織間内の分子ネットワーク上を無造作に泳いでいたことだ。
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