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深淵からの使者
第208話
しおりを挟む「完全に封じ込めるつもりみたいだね」
「ちょっと大げさすぎる気がしなくも無いけど」
「まあ、いいんじゃない。範囲は限定されてるわけだし」
あくまで可能性の問題に過ぎない。
そう、夜月は口にする。
深雪は夜月に対し、作戦の中断は?と促した。
夜月はその提案に対して明確な答えは持っていなかった。
ただ、「中断」自体に意識が割かれている様子はなかった。
可能性。
——そう、問題は、亀裂の内部からクリーチャー以上の魔物が出てくる、という「可能性」にある。
その確率が0にならない限り、準備を怠る必要性はない。
それは他のメンバーもわかっていた。
夜月の意向に従わなくとも、戦闘を経験してきた天使たちにとっては、戦闘を有利に進められる“準備”に時間を割くということに異論はないし、その重要性についてをよく理解している。
天使同士の戦いならまだしも、魔族との戦いは攻撃の先制率が高くなるほど勝率も上がる。
MLSや霊術院で学ぶ多くのことは、魔族を討伐するために必要な要素、その具体的な枠組みや性質についての研究だ。
情報は少なければ少ないほどいい。
魔族側の視点に立てば、この“考え”は戦闘という側面に於いて同等の価値と意味を持つだろう。
敵を正面から討つという考えは、こと生死を分ける局面に於いては何の役にも立たない。
敵は背中から斬るものだ。
天使の戦闘術に於いて、最初に学ぶ言葉が、「やり方を問うな」というものだ。
卑怯だの汚いなどという考えの介在する余地は、そこには無い。
あるのはいかに殺傷能力を高められるかに注力した戦闘術のカリキュラムであり、非効率の要素を省いた行動に向けての指南が、公の軍事機関に向けて発信されている。
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