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試合
第694話
しおりを挟むシャワーを浴びて、髪を乾かして、冷蔵庫でキンキンに冷やしておいたプリンを食べた。
んー!これこれ!
思わず冷蔵庫とハイタッチする。
スプーンを手に取り、鼻歌を交えながら、ソファにダイブした。
支度をするにはまだ早いから、自分の部屋に戻って、カバンの中から教科書や辞書や、筆記用具などを取り出し、机の上にばらつかせた。
歴史に理科に英語に数学。
色とりどりに広がった多彩な科目の譜面たち。
こんなにも広い範囲を勉強しなきゃいけないなんて、考えただけでも嫌になる。
たった1つの教科書でいいじゃない。
例えば国語。
その1つだけの教科を磨いていくという絶妙な素朴さだけが、これからの人生に広がってくれたら…。
今日の歴史の授業。
「類人猿がなんだ!」って、ホントに思ったな。
2000万年前の出来事なんて、ふざけてる。
どこまで歴史を遡るんだって、おいおいと思いながら先生の話を聞いていたけど、ぶっちゃけ、類人猿と中新世類人猿の区別ができたって、なんの役にも立たない。
教科書80ページ目に出てきたテナガザル。
そいつがこっちにおいでと手招きしながら、「2000万年前の世界はここです!」って、ジャングルの絵の表紙の前に立って、気前のいい挨拶を交わしてくれていたけど、世の中、自動ドアだし。
亜熱帯の緑の内側にようこそ!なんて笑顔で歓迎されても、ごめんなさい、ちょっと壮大すぎてついていけない。
パンフレットという名の参考書を手に持って、「ここはこういう歴史がありました」とアナウンスされながら案内されても、はいはいそうですかと言うことしかできない自分が、恥ずかしいなんて思えない。
ねえ、テナガザル君。
今、私たちが住んでいるこの世界よりも、当時の世界はずっと、美しい世界が広がっていたの?
1日の授業を思い出しながら、部屋の机の上でノートを開いていた。
自分の今しなきゃいけないことが、わけもわからない暴風雨になって頭の中をぐちゃぐちゃにしていた。
だからせめて気休め程度にでも、勉強しなきゃなと思った。
明日の自分が、今日の自分を追い越せるように。
机の上が今日も、散らかっていた。
筆記用具はいつも、だらしなく散らばっている。
机と椅子のネジは少しだけゆるんで、時々グラグラしながら。
部屋の片隅でモノトーンに進んでいく時間。
曲がりくねっていく思考。
終わらない課題。
その内側で、悪戦苦闘する午後の静けさ。
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