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旅立ちの日に
第665話
しおりを挟む本当の意味で、時間を巻き戻すことなんて出来ないんだ。
フェードアウトしていく日常は、——その影は、絶対に「今日」を追い越さない。
だけどその「絶対」は、“可能性の限界”を指し示しているものじゃない。
過去は変えられない。
それが「世界のルール」だった。
だけどそのルールは、運命という言葉のくくりの中に立ち止まる「時間」が、明日を追い越せないからじゃない。
むしろその逆なんだ。
選択ができるのは今なんだ。
未来を変えられるのは今なんだ。
運命の向こう側に行けるチャンスは、たった1回きり。
だけどそのスピードは、風が流れるよりもずっと速く、それでいて…
タンッ
ふと、体育館の床の上で弾けるステップ音が、耳を掠めた。
竹刀が振り下ろされる残像。
一直線に伸びていく影。
あんたは、いつも日常の最前列にいた。
時間が交錯する1秒の最中に立ち、「現在」の中央に飛び込み。
どこかで憧れてたんだ。
前に向かって行こうとする姿。
生と死を分ける真ん中で、「今」を手に入れようとしていたこと。
剣を抜く間際に目を研ぎ澄ませ、じっと見てた。
剣の先、その軌道の流れる先に触れる刹那を。
あんたなら、きっと何かを変えてくれる。
どんなに辛いことがあっても、どんなに退屈な朝が来ても、——きっと。
大切なのは、形を残すことじゃない。
むしろ“離す”ことだって、あんたに教わった。
流れの中にしか、足を動かせない。
静寂の暇(いとま)を突けるのは、連続する時間と時間の合間だけだ。
存在と、非存在を分ける境界。
たったひとつの間合い。
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