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風の通り道
第625話
しおりを挟む「前、言ってたよね?」
「何を?」
「世界が滅ぶって」
隕石のこと?
そう聞いた。
キーちゃんは遠くを見てた。
点滅する星と星の軌道線上を追い、なにかを探すように。
「形あるものはいつか滅ぶ。私はそう教わってきたわ」
「誰から?」
「わからない。もう、その言葉が、いつ存在していたのかも」
夜は深くなる一方で、潮騒は私たちのそばを走り出す。
それは歌のように聞こえた。
どこまでも優しい音色を響かせながら、時に、水面をつつき。
廃墟。
隕石。
燃え盛る大地。
灰色に染まっていく空。
記憶の中にあるものが事実でも、こうして隣にいるキーちゃんを見ていると、それが嘘なんじゃないかって思えてくる。
自分が立っている場所、月明かりが届く距離、そのどれもが、指先に触れる確かな温もりを持ち。
空。
私たちの視線の先にあるものが、どこまで続いているのかわからない。
昔、言ってたよね。
「どれだけ距離が離れてても、世界には“果て”がある」
って。
でも、それをいつか越えてやるんだって言ってた。
笑っちゃったよ。
だって、「世界」がなんなのかもわかってなかったからさ?
天体望遠鏡で見た土星の輪っか。
神秘的な木星。
それから、キーちゃんの大好きだった海王星。
レンズの先に見える広い宇宙を眺め、いつも探してた。
学校が終わって、その足で蹴り上げた2丁目の路地。
成層圏の向こう側に広がる、新しい何かを。
「どんな未来だったん?」
そう尋ねたのは、漠然とした感情からだった。
何かを知りたかったわけじゃない。
いや、…ちょっとそれは違うかな?
とにかく、聞いてみたかった。
どんな世界にいて、どんな時間を過ごしてきたのか。
「わからないって言ったでしょ?」
「そんなこと言うても、少しくらいわかるやろ?」
「…うーん」
「私のことは知っとって、自分のことはわからんの?」
奇妙だ。
時々、昨日何食べたっけって思うことはあるよ?
だけど自分の好きな食べ物も、嫌いな食べ物も、明日学校がある日かどうかも、すぐに思い出せる。
それが普通でしょ?
わかんないって、なにがわかんないの?
私は知ってるよ。
キーちゃんの弱点。
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